選ばれる企業は物語を語る 中小企業ブランディングを支えるPRの力

成功事例：理念を言葉に変えた経営者たち

ここでは、複数社の成功要素を再構成した合成ケースを提示する。地域は異なり、業種も違うが、共通点は「社長の言葉が事業の設計に接続している」ことだ。

Case 1：誤差ではなく「安心」を売る、BtoB金型メーカー

九州の金型メーカーA社は、精度の数字を競うコミュニケーションから卒業した。「誤差±0.01mm」という事実は凄い。しかし、顧客は数字ではなく「止まらない生産ライン」を買っている。社長インタビューをAIで転記・要約し、頻出する言葉を抽出したところ「止めない」「替えの効く設計」「夜間も出る」が上位に並んだ。そこでメッセージを「止めない安心に、設計で責任を持つ」へと再設計。技術記事は減らさずに、顧客事例と24時間対応の現場写真を増やした。PRの軸も、機械見本市での製品露出から、ライン停止の経済損失を可視化する調査発表へ転換。社会が見る“価値の単位”を変えることで、A社は値引き交渉の時間が減り、採用面接での志望動機が具体化した。

「うちは精度を競ってきた。でも取引先は『止まらない』を買っていた。言葉を変えたら、社内の判断が速くなった」

A社長

Case 2：ローカル食品メーカー、採用広報を「家族の食卓」で語る

東北の老舗食品B社は、採用に苦戦していた。求人広告の表現は「安心・安全・伝統」。悪くないが、刺さらない。社長の幼少期の記憶を丁寧に掘り起こすと、「父の背中」「朝4時の工場の匂い」「祖母が渡すまかないの味」が出てくる。これを写真・動画・短文に翻訳し、採用サイトの冒頭に「あなたの家の食卓に、私たちの朝が届く」という一文を置いた。生成AIは、既存レビューの要旨抽出や過去レシピのタグ整理を支援。地元メディアには「ローカル企業が家族の記憶を採用資産にする」という切り口で投げ込み、社内では“家族手当の拡充”という行動で裏打ちした。応募者の質問は「何を作るか」から「ここで生きる意味」へと変わった。

短い言葉が、長い行動を生む。企業の詩は、現場の汗で韻を踏む。

PR経営ラボ 平畑 佑司

Case 3：PRベンチャーC社、生成AIで「職人の目」をスケール

北陸のPRベンチャーC社は、クライアント報道分析の時間を半減。AIが記事を構造化し、「論点・感情・証拠」の3層で可視化する。人はその上で、「この記者の関心は何か」「次の打ち手は何か」を判断する。C社はあくまで職人の編集眼を中心に置きつつ、「みんながやっている」レベルのAI活用を標準化。結果、担当者の時間は「語りの伴走」と「社長広報のトレーニング」に配分された。導入の要は、ガイドラインを“守るための紙”ではなく“学習する場”にしたこと。毎週30分、AIが拾った洞察をチームで検証する。そこから、各社の物語が磨かれていく。