静かな老朽、消える歓声を防げ——中日・ナゴヤ球場移転計画が投げかける「再生」の問い

展望：スポーツがつなぐ未来

新しい本拠地に足を踏み入れる朝を想像する。自動ドアが開いた瞬間の木の香り、微かに感じる風の流れ、コンコースに差し込む自然光。チケットレスでスムーズに入場し、段差のない緩やかなスロープを進む。視界が開けると、芝の緑が目に沁みる。耳に入るのは、歓声だけではない。ベビーカーの車輪が軽やかに回る音、補助犬の爪のリズム、シニアの笑い声。さらに、そこに、練習を終えた若手が、データルームで自分の球速と回転数を確認している。汗の塩が乾く匂いと、コーヒーの香りが混じる。五感の交差点に、街の鼓動が重なる。

2030年代前半。名古屋の空に、再生の輪が描かれる。周辺には、歩いて楽しい回遊動線が張り巡らされ、川沿いのベンチで人は風を浴びる。平日の朝は健康プログラム、昼は学生の見学、夜は試合。週末はマルシェと、地域スポーツの交流会。つまり、球場が地域の時間割を増やす。これは、勝敗を越える価値だ。結果が出ない夜にも、街は息をする。子どもは走り、大人は語り、高齢者は歩く。スポーツ・健康産業の核は、こうして街の「平均心拍」を上げることにある。

恐怖訴求で描いた最悪——事故、断絶、沈黙。それを避けるベスト——安全、接続、賑わい。二者択一に見えて、橋は一本だ。決断、設計、対話、実装、そして運用・改善。私は知っている。練習で打たない球は、試合でも打てない。準備とは、怖さを小さく分解することだ。2030年代前半に向け、今この瞬間から、できる一歩を重ねたい。たとえば、あなたの一歩は、説明会に参加することかもしれない。次の一歩は、家族を連れてナイトゲームを歩くことかもしれない。歩幅は違っていい。大切なのは、歩き続けることだ。

結語：希望のバトンを次世代へ

ベンチの端で、グラブに顔を埋める若者の呼吸を聞いた。震える肩は、挑戦の重さを知っている。私たちにも、震えはある。怖い。変わることが。けれど、変わらないことの方が怖いときがある。老朽化は、静かに夢を削る。だから、走ろう。声を出そう。手を伸ばそう。新しい本拠地は、誰かが作ってくれる魔法ではない。むしろ、私たちの意志と、小さな行動の集合体だ。歓声を絶やさないために。子どもたちが、またここで空を見上げられるように。次の打席に立つのは、私たちだ。バットを振ろう。弱さは、振り切ったあとに軽くなる。