中学の部活動 “地域展開”で新ガイドライン案 国の有識者会議

現状分析：努力の裏にある見えない物語

舞台は架空の町・青海（あおみ）。港の防波堤が、少年の遠投の先を静かに見つめる。中学野球部は、ここ1年で地域クラブとのハイブリッド運用を始めた。週前半は校内で基礎を磨き、週末は地域の球場で合同練習と交流戦。元高校球児の社会人がコーチとして週1で帰ってくる。彼は、かつて県大会の土を踏みながらも、怪我で夢を閉じた。その彼がいま、柔らかな声で投手の肩に手を置く。「急がなくていい。肩は君の未来だから」。少年は小さく頷き、指の力を整える。

移行の初日、キャプテンの陽人（はると）は、ボールを落とした。グラブの中で、白球が小さく跳ねた。「あ、やばい」。そのつぶやきを、隣にいた社会人コーチが笑って飲み込む。「落ち着け。次の一球で、世界は変わる」。次の一球は、吸い込まれるようにミットの芯を鳴らした。陽人は胸を張り直し、声を出す。チームメイトの返事が、壁にぶつかって返ってくる。音が重なり、輪郭の薄かったチームが、少しずつ形を持ちはじめた。

「おかえり。ここは、いつでも帰ってきていい場所だ」

地域クラブ代表

季節は巡り、春の交流戦。陽人は最終回、二死満塁で打席に立つ。喉が乾く。背中に貼りついたユニフォームが、汗で重くなる。ボールが指を離れる瞬間の、投手の小さな癖。彼はそれを見逃さない。カキン。打球は、ライトの前で落ちた。三塁走者が滑り込み、土が舞い上がる。歓声が、海からの風と混じって胸に刺さる。ベンチから飛び出す仲間の足音。彼は一塁上で空を見上げる。あの日、彼らが掴んだのは勝利だけじゃない。「続けられる希望」だった。