和歌山初の女性ラグビー審判員に「三刀流」の女子高生がデビュー

提言：挑戦を支える社会の力

では、何をすべきか。まず、機会づくりだ。審判の実地経験を増やすために、練習試合や地域大会でのマッチングを仕組み化する。次に、可視化だ。若手レフェリーの学びや迷いを発信し、「なりたい人」の想像力を支える。三つ目に、セーフティネット。誹謗や過度なプレッシャーから守るための相談・通報・伴走の体制を整える。最後に、評価の共通化。レフェリーの評価は「叱責」になりがちだが、ポジティブなフィードバック文化を作ることで、挑戦が続く。

企業は、スポーツ・健康産業の視点で支援できる。ウェアラブルでの移動距離・心拍の可視化、意思決定のパターン学習、映像のタグ付け自動化。テクノロジーは、レフェリーの「見えない努力」を見える化し、疲労の蓄積を予防する。また、教育現場はカリキュラムの一部にレフェリーシップを取り入れられる。判断と責任、説明と聴く力。これは社会で通用する汎用スキルだ。三刀流の挑戦者を増やすことは、地域の「社会人基礎力」を育てることでもある。

「勝ち負けを超えて、誰かの安全を守る判断ができる人を増やす」

スポーツにできる最大の教育効果

そして、私たち一人ひとりにできることがある。観戦のマナーを守り、判定へのリスペクトを忘れないこと。SNSでの言葉に配慮を持ち、挑戦者を言葉で支えること。試合後に「ナイスレフェリング」と声をかけること。小さな行動が、次の笛を軽くする。スポーツは社会の鏡だ。鏡の前で背筋を伸ばすのは、私たちだ。

展望：スポーツがつなぐ未来

和歌山で鳴った一本の笛は、遠く離れた誰かの胸にも響く。いま、別の地域で迷っている中高生が、スマホでこのニュースを見ているかもしれない。「やってみたい」と思った瞬間、その人の未来は少しだけ変わる。希少は、欲望を生む。限られているから手を伸ばしたくなる。希少の価値を、挑戦の原動力に変えるのは、社会の設計だ。適切な機会、安心できる環境、学べる場、称賛の文化。これらが揃えば、希少はいつか「普通」になる。普通になったとき、次の希少が芽を出す。スポーツはその循環のエンジンであり続けられる。

私の前職はスポーツ新聞の記者で、さらに遡れば高校球児だった。現場で汗を吸い込んだ土の匂いは忘れない。地域スポーツ振興の担当として、何度も「最初の一人」に出会ってきた。最初の一人は、いつも孤独だ。だが、孤独の向こうにあるのは、まだ誰も見たことのない景色だ。和歌山の空の下、彼女はそこに向けて笛を鳴らした。次は、あなたの番かもしれない。

結語：希望のバトンを次世代へ

私は最後に、読者であるあなたに伝えたい。スポーツは誰かの勇気でできている。選手の勇気、指導者の勇気、そしてレフェリーの勇気。勇気は感染する。一本の笛が鳴るとき、誰かの中で何かが始まる。和歌山で生まれた希望の音を、あなたの場所で響かせてほしい。挑戦は、いつだって足元から始まる。最初の一歩は、小さくていい。足裏で地面の固さを確かめるところからでいい。立ち止まりそうになったら、あの日の笛を思い出してほしい。冷たい空気を割って、まっすぐに届く音を。