
EV暴走リスクと運輸・物流の教訓——「初速」を見誤らない設計・運用へ
現状分析:産業・制度・技術の交差点

EVの暴走リスクは、ひとつの原因にだけ還元できるものではありません。特に初期トルクの立ち上がりを巡る「制御できない初速」は、モーター、インバータ、ブレーキ、HMI、センサー群、そしてソフトウェアの状態遷移が結びつく「結合リスク」として捉える必要があります。現場では、次のような連鎖が起こり得ます。寒冷時や満載時に回生ブレーキの効きが変化して停止直前の挙動が変わる→ドライバーがアクセルに踏み替えるタイミングがわずかに早まる→路面の摩擦係数が高くタイヤが即座に反応する→トルク要求のレートリミットが想定より緩く設定されている→初速で車両が跳ねるように動いてしまう、といった一連の流れです。この全体像を俯瞰しない議論は、どうしても個別最適にとどまりやすくなります。
- 機能安全レイヤ:センサー冗長、アクチュエータ冗長、フォールト検出、ブレーキオーバーライド
- 制御アルゴリズム:ジャーク制限、スロットルマップ、勾配・荷重補償、路面推定
- HMI/UX:ペダル感度、モード表示、手動/自動切り替え、警告の一貫性
- 運用フロー:ソフト更新承認、既知不具合の回避策、運転者教育、試運転の標準化
- データ連携:EDR/ログの収集、異常検知、共有プロトコル、プライバシー配慮
「制御できない初速」
制度面では、型式認証と実運用のギャップが大きな論点となっています。静的な試験や限定的なコースでの評価は必要条件ですが、OTAによってソフトウェアが更新される時代には、更新後の性能確認とリスクコミュニケーションが不可欠です。UNECE R155/R156やISO/SAE 21434といった枠組みはサイバーセキュリティとソフトウェア更新管理を体系化していますが、これらを遵守しているからといって、現場の安全体感が自動的に高まるわけではありません。物流事業者は調達・運用・教育という三つの側面で、このギャップを自ら埋めていく必要があります。
安全投資はコストではなく、生存条件です。
また、EVの特性に関する公的な情報も、積極的に参照することが重要です。例えば、国土交通省「電動車の特性を理解して運転しましょう」では、EVやハイブリッド車の基本的な特性と注意点が整理されています。こうした一次情報を、社内教育やマニュアル作成に取り入れることで、現場での理解を一歩深めることができます。















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