EV暴走リスクと運輸・物流の教訓——「初速」を見誤らない設計・運用へ

技術革新の裏側にある倫理

「できること」と「してよいこと」の間には、いつも距離があります。EVはソフトウェアの更新や設定によって性格が大きく変わります。初速のスロットルマップ、回生ブレーキの割り当て、ブレーキの協調制御、勾配や荷重の推定、路面状況の推定など、アルゴリズムは快適性と俊敏性を高めようとするほど、境界条件に敏感になっていきます。倫理の要は、設計側の意図と運用の現実の間に透明性をつくることです。設計の意図が十分に伝わっていなければ、現場は「いつの間にか挙動が変わった」と感じます。逆に、現場の現実が設計側に届いていなければ、設計は「想定外の領域」を増やしてしまいます。この非対称性が、初速リスクを広げる温床になり得ます。透明性とは、記録・説明・是正に関する権利と責任を明確にすることでもあります。

• 説明可能性：ソフト更新で何が変わるのか、初速・停止・回生ブレーキの挙動がどう変化するのかを明示します。
• 同意と選択：段階適用、ロールバック、A/B比較の権利を事業者が持てるようにします。
• 責任の明確化：設計・運用・現場の役割と責任（RACI）を定義します。
• プライバシーと安全：ログの保全・匿名化・第三者検証の仕組みを整えます。

「安全は、設計できる文化そのものです。」

機能安全の経験則

倫理は規範であると同時に、競争力の源泉でもあります。安全文化の成熟は、事故の減少にとどまらず、顧客からの信頼、保険や金融条件の改善、採用力の向上、行政との対話の質の向上にも直結します。短期の効率化と長期の信頼は、必ずしもトレードオフではありません。初速を制御できる企業は、変化の初速も制御できる企業です。恐怖で足をすくませるのではなく、「避けたい最悪の結果」を常に想像し、その手前で確実に止める仕組みを整えることが重要です。これは倫理の問題であると同時に、経営の根幹に関わるテーマでもあります。