
CO2見える化義務化で取引が止まる前に──中小企業のAI最短対策
国内外の比較事例
「CO2が出せない会社」は入札のスタートラインに立てない
海外では、主要メーカーが「カーボン・インテンシティ(製品当たりCO2)」を調達基準に組み込み、サプライヤー選定に反映し始めています。入札段階でCO2情報の提出を必須化し、未提出は不備扱いとするルールも珍しくありません。国内でも同様の動きが広がっており、建設・自動車・電機などの分野で、原材料の排出原単位の提出が求められるケースが増えています。中小企業にとってこれは、単なる「新しい書類」ではなく、「見積の必須項目」に変わることを意味します。未対応は、そのまま受注機会の直撃となります。
有効だったアプローチとしては、段階的な導入が挙げられます。第一段階では推計中心の簡易台帳(電力・燃料・購買金額ベース)を整備します。第二段階では重点工程の実測化(スマートメーターやIoTセンサー)に進み、第三段階でサプライヤー別データの取得(共同プラットフォームの活用)へ移行します。この三層構造をとることで、現場の負担を抑えながら精度を高めることができます。
ここでAIは、推計のバラつきを補正し、異常値を検出し、入力の自動化(請求書OCR×排出係数付与)を担います。重要なのは、計算式そのものよりも「データの来歴(データラインジ)」を残すことです。監査・保証で問われるのは、値そのもの以上に「どのような前提とプロセスで導いたのか」という説明可能性だからです。

| 項目 | EU(CSRD/ESRS) | 日本(有報・各種ガイダンス) | 米国(SEC気候ルール等) |
|---|---|---|---|
| 対象範囲 | 広範(Scope1〜3、ダブル・マテリアリティ) | 段階的拡大(財務報告との連携強化) | 段階的(Scope1〜2中心、Scope3は条件付き) |
| データ要求 | 実測・バリューチェーン重視 | 合理的な基準に基づく推計も可 | 財務的に重要な項目中心 |
| 保証・監査 | 限定的保証から強固な保証へ移行 | 整備拡大中(内部統制の枠組み活用) | 監査の適用範囲を段階的に導入 |
| 実務インパクト | サプライヤーの実データ取得圧力が非常に強い | 上場企業中心にサプライチェーン連携が進む | 上場企業の開示とリスク記載の明確化が進む |
国内の先行事例では、調達部門が主導し、排出原単位を価格と同列で評価する「二軸の入札」を採用したケースがあります。その結果、コスト増を最小限に抑えながら排出削減を実現できました。これは、価格の一律比較から、ライフサイクルコストの比較へと視点が移ったことを意味します。AIは、原材料の置換シナリオを生成し、輸送経路の最適化を提案し、設備稼働のカーブを電力由来CO2が少ない時間帯に合わせる「需要応答」の計画を提示できます。技術をうまく使うことで、「損失回避」と「価値創出」を同時に満たす余地が広がるのです。















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