
1億枚の安心、8割の同調?「みんなが持つ」マイナンバーが映す権力と世論の設計図
事実関係の検証
まず一次情報の確認から始める。朝日新聞は「マイナンバーカード、1億枚突破 交付開始から10年、保有率8割」と報じた。記事は交付開始から10年という節目で、累計交付枚数が1億枚に達し、保有率が8割に上ったという要点を伝えている。制度の機能や具体的な利便の列挙は記事の範囲外に見えるが、この二つの数値は政策コミュニケーションにおいて強いシグナルを放つ。すなわち、普及率の高さと制度の定着を可視化する材料になるということだ。ここで慎重に言葉を選ぶなら、1億枚は利用の質を保証するものではないが、社会的証明としては十分に強い。政策の評価指標として「交付枚数」「保有率」を掲げることは広報上の合理性がある—そのように理解される。
「マイナンバーカード、1億枚突破」
出典:朝日新聞デジタル(URL末尾参照)
他方で、この数字から直ちに「行政効率が均等に向上した」「デジタル包摂が達成された」と結論するのは、分析の飛躍に当たるとも言われる。自治体ごとの導入体制、窓口の業務フロー、住民の年齢・所得分布、ネット環境などは地域差が大きい。保有率8割の下には、「使っている」「持っている」「持っているが使っていない」という異なる層が埋まっている。朝日新聞の見出しは到達点を伝えるが、利用実態の多層性までは示していない。だからこそ、本稿では「数値の明るさ」と「運用の陰影」を併置し、政策の評価が枚数一本足になっていないかを確かめたい。
誰が得をしたか/誰が損をしたか
- 得をした主体(とされる):
・行政(手続きの一部デジタル化で省力化が進んだとの評価)
・受託企業(発行・保守等の需要で安定的な案件が生まれた構図)
・一部の住民(オンライン手続きの利便を享受) - 負担が増えた主体(とされる):
・自治体窓口(説明・再交付・トラブル対応などのフロント負荷)
・デジタル弱者(機器・回線・知識の不足による参加コスト)
・監督部署(安全・品質・広報の同時管理)
この配分は善悪の問題ではない。制度設計の初期には、得失の偏りが生じやすいという一般則に近い。重要なのは、偏りを検知するセンサーと、それを補正する仕組みが機能しているかだ。保有率8割という社会的証明は、センサーを鈍らせる方向に働くことがある。「もう多数派だから大丈夫」という自己安心が、少数の不便を矮小化してしまうからだ。















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