
ホテル代高騰時代に“損しない” 中小宿泊業社長の価格設計と需要シフト
データで読む現状(統計・動向・比較)

トレンド:宿泊価格はコロナ前を上回る水準に復帰し、都市部や主要観光地で上昇が顕著になっています。総務省の消費者物価指数(CPI)の「宿泊料」系列は、2023〜2025年にかけてコロナ前比でプラス圏が続いています※(消費者物価指数)。観光庁の「宿泊旅行統計調査」では、延べ宿泊者数のうち訪日外国人(インバウンド)の比率が都市部で高まり、地方では国内比率が高い傾向が続いていることが示されています※。NHKの報道が伝える「高くなった」という実感は、統計が示す緩やかな上昇と整合的だといえます。
要因は大きく三つに分解できます。
(1)需要の回復と円安による外需の押し上げ
(2)供給制約(客室復帰の遅れ、人手不足、エネルギーコストの上昇)
(3)事業者側の価格受容性の変化(赤字回避のための価格適正化)
この三つが重なることで、「高い」と感じる価格の構造的な根拠が見えてきます。
原因:需要・供給・コストの三面から、できるだけシンプルな式で把握してみます。客室売上は、RevPAR(客室稼働単価)=ADR(平均客室単価)×稼働率で表されます。粗利益は、RevPARから客室変動費(清掃・リネン・アメニティ等)と労務・エネルギー等を差し引いた残りで決まります。賃金上昇と光熱費の増加により、同じ稼働率でもADRを一定程度引き上げないと、粗利益が確保しづらくなっています。
たとえば、変動費が1室あたり3,000〜5,000円、ピーク時の人件費が1室あたり2,000〜3,000円まで上昇しているとします。ADRが1万円前後の施設であれば、数百円の価格差で利益が消えてしまうことも珍しくありません※。つまり、「少しの値上げ」が「雇用の継続」を左右するという状況になっているケースも多いのです。価格を戻す動機は、単なる利潤追求というよりも、損失を避けるための合理的な防衛策だといえます。
打開策の方向:数式は冷たく見えますが、運用は人間的であるべきです。損失回避の心理を予約導線に織り込みます。たとえば、「最安は30日前/返金不可」「返金可は+1,500円」「連泊割は2泊目▲10%」といった価格の階段(フェンス)を、一貫したルールで設計します。これにより、価格をむやみに下げずに可用性と条件で需要を振り分けることができます。
次に、曜日差や季節差を明示し、平日の価値を高めます。たとえば「平日限定でワークデスク保証」「午前チェックイン+午後チェックアウトのフレックス滞在」など、時間価値で競う設計です。最後にチャネルの最適化として、手数料の高いOTA(オンライン旅行代理店)ではピーク日の露出を抑え、直販への誘導を進めます。価格の一貫性(レートパリティ)を守りながら、会員特典は付帯価値で差別化するのが基本です。
| 指標 | 定義 | 中小宿泊業の実務ポイント |
|---|---|---|
| ADR | 平均客室単価(総客室売上 ÷ 販売客室数) | ピークは返金条件・滞在条件で引き上げ、オフは付帯価値で下落を抑制します。 |
| 稼働率 | 販売可能客室に対する実販売の比率 | 山谷の平準化が重要です。平日のメリットの明確化と連泊誘導が鍵になります。 |
| RevPAR | 客室稼働単価(ADR × 稼働率) | KPIは日別・客室タイプ別にモニタリングし、下限ラインを設定します。 |
| 流動費/室 | 清掃・リネン・アメニティ等の変動コスト | 価格下限の根拠です。下回る販売は原則避けるルールにします。 |
「高い」が炎上するのは、値段そのものが理由ではありません。理由を語る材料(データ・約束・代替案)が不足しているからです。
こうした「数字と構造」を読み解く姿勢は、ニュースEveryday内の他の記事――たとえば両立支援制度をテーマにした「令和8年度の両立支援等助成金が拡充されます」とも共通しています。制度・データ・現場の3つを結ぶ視点を、宿泊価格の議論にも応用していきます。















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