
ホテル代高騰時代に“損しない” 中小宿泊業社長の価格設計と需要シフト
政策と現場のギャップ

制度の歪み:宿泊業は、規制と補助の狭間で「ルールは多いが助けは届きにくい」産業になりがちです。観光振興はスローガンとして掲げられますが、労働・在留資格・税・エネルギーなどの制度は、宿泊現場のピーク管理や季節変動を十分に前提としていません。その結果、「稼げる日に稼げない」「雇いたい時に雇えない」「投資したい時に資金を引き出せない」という三重苦に陥るケースが多いです。
価格の議論に入る前に、まずは「売る自由」と「雇う自由」を整える必要があります。もし政策が「訪日3,000万人→4,000万人」という数量目標だけを掲げながら、宿泊税や観光税の使途が現場の人手・データ・教育に十分回っていないとすれば、その政策は量の拡大を優先するあまり、質を毀損している可能性があります。この点は、政治発言を入り口に制度設計を読み解いた「「捨てる」の先で何を拾うか」でも繰り返し指摘しているポイントです。
制度疲労と実務負担
– 人材:技能実習や特定技能の運用は徐々に改善が進んでいますが、繁忙の季節性・地域性に対する機動性はまだ十分とはいえません。宿泊業ではフロント・客室清掃・簡易調理などを兼ねる多能工の育成が効果的ですが、現行の職種定義や労働時間規制の硬直性が実務を縛りやすくなっています。
– 税・補助:宿泊税・観光税の地域導入が進む一方で、その使途の透明性は必ずしも十分ではありません。施設の省エネ投資やデジタル投資(PMS、RMS、BIなど)に直接結びつく枠の拡充が望まれます。
– エネルギー:電力の契約形態はピーク電力に連動しやすく、宿泊の稼働ピークと相性が悪いケースもあります。連泊誘導やオフピーク販売などの需要平準化の努力に対して、料金面でのインセンティブが弱いことも課題です。
中小企業の視点
中小宿泊業の現場では、「価格を上げれば常連が離れてしまうのでは」「OTAのアルゴリズムが怖い」「人手が足りないから客を取り切れない」といった恐れに囲まれがちです。これは、まさに損失回避の心理の裏返しです。失いたくないがゆえに、値付けと販売戦略の見直しを先送りしてしまい、その結果としてより大きな損失(安売り・在庫滞留・悪い口コミ)を招いてしまうこともあります。
ここで必要になるのは、「恐れの対象を分解し、可視化し、小さく実験する」という姿勢です。価格は毎日がテストであり、正解は施設ごとに異なります。制度が万能でない以上、現場は「設計された自由」を手に入れるべきです。すなわち、価格下限と上限の自主ルール、予約条件の標準化、在庫配賦の基準、スタッフのクロストレーニング計画、そして月次の収益会議です。
| 恐れ | 観察指標 | 小さな実験 | 想定リスク | 損失回避の策 |
|---|---|---|---|---|
| 常連離れ | 会員予約比率、再訪率 | 会員限定で返金可プラン据え置き | 値上げへの不満 | 理由の明示と付帯特典の付与 |
| OTA露出低下 | 検索順位、表示回数 | ピーク日の在庫抑制、肩シーズン増 | 販売機会の喪失 | 直販限定オファーで補完 |
| 人手不足 | 充足率、採用単価 | 短時間多能工の導入 | 教育負担の増加 | 標準作業書と手当の明確化 |















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