ホテル代高騰時代に“損しない” 中小宿泊業社長の価格設計と需要シフト

総括:未来志向の経済システムとは

市場は、適正な価格そのものを嫌うわけではありません。嫌われるのは、説明のない値上げと、選択肢のない強要です。政府ができるのは、価格の透明性と価値の可視化を支える基盤整備です。企業ができるのは、価格の理由を語り、条件でフェアに差をつけ、オフピークに価値を移す設計です。そして現場ができるのは、恐れを分解し、小さく試すことです。

損失回避の心理を逆手にとりましょう。「今の料金を確保する」「連泊で損をしない」「会員なら手数料相当を取り戻せる」。これらは煽りではなく、顧客にとっての合理であり、現場にとっての救いでもあります。もしここで一歩を踏み出すことができれば、価格高騰の時代は「値上げの時代」ではなく、「価値設計の時代」へと変わっていきます。

宿泊業は、地域の雇用と文化を支える基幹産業です。価格を恐れるのではなく、価値で語る。その第一歩として、本稿で整理した価格設計・需要シフト・制度対話のフレームを、自社の状況に合わせてカスタマイズしていっていただきたいと思います。

要約

事実:宿泊価格は上昇基調にあり、要因は外需回復、供給制約、コスト増の三つが重なっていることです。
論点:価格批判そのものよりも、説明責任と設計の不足が問題です。
解決:上下限の価格ルール、販売フェンス、時間・属性の需要シフト、データ運用の5点を即実装することが推奨されます。
政策:人材・税・データの三点セットで現場の自由度を高めることが、中小の宿泊業にとって重要です。
視座:損失回避の心理を予約導線に組み込み、「逃す損」を減らす経営を目指します。

短中長期提言

短期(3か月)
– 下限・上限・フェンスの価格ポリシーを文書化し、自社サイト・OTAに反映します。
– 週次KPIダッシュボード(ADR、稼働、RevPAR、変動費/室、キャンセル率)を整備します。
– 直販会員の特典設計(付帯価値ベース)と損失回避の文言を統一します。
– 平日ワークプラン・連泊割を開始し、清掃頻度の最適化で原価を3〜8%圧縮することを目指します※。

中期(6〜18か月)
– RMS(レベニューマネジメントシステム)やPMSのリプレース、BI可視化への投資を検討します。
– 多能工育成カリキュラムを導入し、繁忙期の応援シフトを運用します。
– DMO・近隣施設と周遊連携を行い、肩シーズンの共同キャンペーンを実施します。
– 断熱や高効率空調などの省エネ改修で、エネルギー原単位10〜20%削減を目標にします※。

長期(2〜5年)
– ブランドの再定義として、高単価日は体験価値を最大化し、低単価日は地域の暮らしに溶け込む長期滞在の受け皿としての役割を強化します。
– 自治体・DMOと匿名データを共有し、価格・稼働の透明性を高めます。
– 観光税・宿泊税の使途を「現場の生産性」に結びつける制度設計の議論に、民間側として積極的に参加します。

付録:参考資料・出典・謝辞

出典:[ホテル代が高い! 変わる旅のカタチ/NHK](URL: https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10014916421000
追加参考:観光庁「宿泊旅行統計調査」、総務省「消費者物価指数(CPI)」、日本銀行「企業物価・サービス価格関係統計」、e-Stat「宿泊旅行統計調査」、宿泊統計の解説記事(例:honichi.com「宿泊旅行統計調査とは?」)等。
※数値は推定値であり、最新統計は各公式資料をご確認ください。


(文・石垣 隆)

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