若手が辞める会社は“これ”をしていない──IT・ソフトウェア中小の定着設計と制度見直し

データで読む現状(統計・動向・比較)

本稿の一次情報は「2025年版|大卒新入社員の3年以内離職率と会社の規模別傾向」(KAI LABO)です。詳細な数値は同記事および公的統計に依拠しますが、ここではレンジで概況を示します。3年以内離職率(大学卒)は全体で約30%前後で推移しており、企業規模が小さいほど高く、大規模ほど低い傾向があります。IT・ソフトウェア産業は全産業平均と比べて、中小企業ゾーンでやや高止まりしやすいことが一般的に観察されています。なお、厚生労働省「新規学卒者の離職状況」では、事業所規模別・産業別の3年以内離職率が毎年公表されており、企業規模と離職率の関係を確認するうえで最も信頼性の高いデータソースとなっています。以下では、規模別の概況と、推定誤差を伴いながらも実務に有用なレンジを示します(※推定値のため、実際の運用にあたっては最新の一次資料をご確認ください)。

企業規模(従業員数)3年以内離職率(大卒)IT・ソフトウェアの傾向注記
1〜29人約45〜55%50〜60%に上振れしやすい役割の兼務・育成余力の不足
30〜99人約40〜48%45〜55%案件変動で配属が不安定
100〜499人約33〜40%35〜45%評価・教育制度の整備度が差を生む
500〜999人約28〜33%30〜35%職務定義・キャリアパスの可視化
1,000人以上約24〜29%25〜30%ジョブ型/職能型の並存
出典に基づく概況レンジ(※推定値、詳細は厚生労働省統計をご確認ください)

若手が辞める“本当の原因”は、多くの場合ひとつの要因ではなく、複数の要素が重なった「複合要因」として表面化します。厚生労働省「若年者雇用実態調査」などの公的データを踏まえますと、IT分野では職務の曖昧さ・長時間労働・成長実感の不足が上位に挙がりやすい傾向があります。これを定量的に捉えて意思決定に落とし込むために、ここでは実務上の重要度をスコア化して整理します。

離職要因重要度スコア(100=最大)観測されやすい指標
職務の不明確さ85職務記述書の有無、評価項目の整合性
成長実感の不足80メンタリング時間、レビュー頻度
労働時間・休日への不満75月残業時間、休日出勤率
賃金水準・配分の不透明さ70ペイレンジ公開、昇給基準の公開度
人間関係・心理的安全性681on1実施率、離職前相談の記録
技術負債の高さ60リードタイム、バグ密度、テストカバレッジ
各種調査に基づく実務スコア化

「やめさせない意思決定」は、採用人数を増やすよりも費用対効果が高いケースが多いです。コストは足元で発生し、便益は半年〜数年で着実に現れます。

定着投資の損益分岐点を簡易的に概算してみます。たとえば、年収400万円の大卒エンジニアを10人採用し、3年離職率40%(4人離職)だった状態から、定着策によって35%(3.5人)に改善できたとします。離職1人当たりのコストを年収の1.5倍=600万円と仮定すると、5ポイントの改善によって年間300万円の損失回避(0.5人×600万円)が期待できます。もしオンボーディング強化とメンター時間の確保に年間200万円を投じる場合、初年度から100万円の純増効果が見込める計算になります。次の表では、条件を変えた複数ケースで感度分析を行っています。

仮定ケースAケースBケースC
人員・年収10人・400万円20人・450万円15人・500万円
初期離職率40%35%45%
改善幅5pt7pt8pt
離職1人コスト1.5×年収1.6×年収1.8×年収
損失回避額(年)約300万円約1008万円約1080万円
施策コスト(年)200万円600万円800万円
純効果(年)+100万円+408万円+280万円
離職抑制の便益感度分析(※推定、各社条件で再計算が必要です)

この「損失回避の収益化」を社内で説明する際には、採用単価・教育時間・割り込みによる機会損失(営業・開発の双方)を一つの数式で統一することが重要です。具体的には、採用KPI(応募単価、最終面接通過率、内定辞退率など)と、定着KPI(90日定着率、180日レビュー完了率、1on1実施率など)を同じダッシュボード上でモニタリングします。現場の実感と数字の乖離は、ここまで可視化して初めて埋まりやすくなります。

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