妊娠・産後の心を守らない会社は人材を失う──“静かな離職”を防ぐ中小企業の職場づくり

現実にある悩みのかたち

心の悩みは、大声では語られません。雨上がりの路面の薄い水たまりのように、足を止めて覗き込まないと見えにくいものです。妊娠・産後の時期は、からだの変化、睡眠の乱れ、生活リズムの変化が重なり、心の体力が削られやすい季節です。教育・人材育成の現場では「迷惑をかけたくない」という気持ちが強く、相談が遅れがちになります。ここでは、よくある悩みの形をいくつか見ていきます。

育児・介護・仕事の板挟み

– 妊娠中のつわりや体調不良、通勤の負担。
– 産後の夜間授乳や寝不足、日中の集中力低下。
– 上の子の送迎や小学校行事、学級閉鎖などの突発対応。
– 親の通院や介護の始まり。
これらはどれも珍しくありません。しかし、重なると風のない日に波が重なって高くなるように、心の余白がなくなってしまいます。「欠勤は避けたい」「担当クラスに迷惑をかけたくない」と思うほど、助けを求める声は小さくなり、その結果として長い不調につながることがあります。この不調が、最終的には離職や配置転換という経営上の損失になり得ることを、社長として意識しておきたいところです。

「頑張りすぎる人」が抱える静かなSOS

頑張り屋さんは、空を読んで雨が降る前に傘を差せる人です。でも、つねに空を見上げていると首が疲れてきます。よくあるSOSは、次のようなささやかな変化です。
– いつもの挨拶に力が入らない。
– 笑顔が引きつる。
– 小さなミスが続く。
– 帰宅後に涙がこぼれる。
これは「弱さの証明」ではなく、「守ってほしい」という小さな旗です。組織側が見つけて、先に手を差し伸べる仕組みがあるだけで、被害はぐっと小さくできます。損失回避のいちばんのコツは、早さと低いハードルです。これは、News Everyday編集部が扱う「若手が辞めない組織づくり」のテーマとも地続きの視点です。

「無理を言わないうちに、無理をさせない」

この短い合言葉は、現場でよく効きます。言う側にも受ける側にもやさしく、具体的な行動につながるからです。例えば「朝礼で体調の波を共有する」「午後の重いタスクは別日に回す」「オンライン参加を認める」といった工夫です。小さな調整の積み重ねは、雨樋のように負担を外へ流してくれます。社長の視点から見れば、こうした調整は「一人を守るためのコスト」ではなく、「離職と採用や研修のやり直しを防ぐ投資」と捉えることができます。

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