妊娠・産後の心を守らない会社は人材を失う──“静かな離職”を防ぐ中小企業の職場づくり

提案:小さな行動から始めるセルフケア

「完璧」ではなく「一緒に」

ここからは、家庭と職場の両方に効く「導入の手順」を、損失回避の視点でまとめます。目的はただひとつです。「離職という静かな損失を、未然に防ぐ」ことです。そのために、要となるのがオンライン相談の導入と、相談につながる道の整備です。段階的に、ゆっくり育てていきます。

  • ステップ1:相談先の見える化
    ・社内ポータル/職員室の掲示に、妊産婦向け相談窓口を常時掲示します。
    ・「緊急」「今日」「来週」の3つの連絡先に整理します。
  • ステップ2:オンライン相談の試験導入
    ・匿名OK、10~20分、スマホ対応にします。
    ・週2枠から開始し、予約はQRコードで受け付けます。
  • ステップ3:上司・同僚の声かけ研修
    ・年2回、30分オンライン研修を実施し、「事実→感情→希望」の順で聴く練習をします。
    ・フレーズ例を配布します(後述)。
  • ステップ4:業務の波をならす
    ・午前の重いタスクの削減、会議の録画、通勤混雑回避の時差勤務を導入します。
    ・産前産後は「難易度ガイド」でタスク調整を行います。
  • ステップ5:効果を見る・続ける
    ・「休職・離職の未然防止」「短時間欠勤の減少」「本人の満足度」の指標で、四半期に一度ふりかえりを行います。

声かけフレーズ例(教育・人材育成の現場向け):
– 「今週の波、どんな感じですか?」
– 「ここは私が持ちます。次の晴れ間で返してくださいね」
– 「10分だけ、画面オフで雑談しましょう」

避けたいフレーズ:
– 「皆も同じだから」
– 「がんばれば乗り越えられます」
– 「本人の問題ですよね」

制度メモ(使い方のコツ):
– 産前産後休暇・育児休業:予定と復帰後の働き方を「3案」用意します(晴れ・曇り・雨プラン)。
– 両立支援の助成制度:申請の手間はありますが、窓口担当を決め、テンプレ化すると負担が軽くなります。
– 校務分掌・業務配分:学期ごとに見直し、重複を減らします。

「見える安心」は、迷いの風を弱めます。

オンライン相談は、「見える安心」をつくります。スマホのホーム画面に相談のQRコードがあるだけで、いざという時の決断が早くなります。相談は早いほど短時間で済み、本人の体力も職場の負担も減ります。これは、損失回避の王道です。「困った時はここ」と示すことが、いちばんの節約であり、やさしさです。厚生労働省が公開している妊産婦メンタルヘルスケアマニュアルなども参考にしながら、社内ルールに落とし込むのがおすすめです。

企業が環境整備を進める理由は、思いやりだけではありません。妊娠・産後のメンタルケア不足は、離職やパフォーマンスの低下につながりやすいとされます。採用や研修のやり直し、現場の混乱は、組織にとっても大きな痛みです。だからこそ、オンライン相談や面談、業務の波ならしは「守る投資」です。未来の雨漏りを防ぐ、今の雨樋づくりです。こうした考え方は、健康・メンタルニュースを経営に翻訳した記事(例:「社長の健康リスクは経営リスク」)とも共通しています。

守りたい人を、仕組みで守る。

まとめ:あなたも同じかもしれない

ここまで読んで、胸の奥に小さな風が通ったなら、それで十分です。妊娠・産後の時期は、心も体も、季節みたいに移ろいます。よく晴れた日もあれば、午後から雨になる日もあります。あなたが感じている揺れは自然なもので、恥じる必要はありません。必要なのは、晴れ間を待つことではなく、雨の日のレインコートを用意しておくことです。オンライン相談や声かけの言葉、短い休息の作法。それらはすべて、あなたと周りを濡らさない工夫です。

教育・人材育成の現場にいる私たちは、子どもたちの前で天気をつくる人でもあります。先生や保育者、職員の心が穏やかなら、その空は子どもたちにも映ります。組織が人を守ると、人は組織を守り返す。そんな循環を信じて、小さな一歩を重ねていきたいです。今日の空は、きっと昨日と少し違います。あなたのポケットに、やわらかなハンカチのような言葉が残っていますように。さらに、採用や定着をテーマにした別記事と組み合わせることで、「人材戦略」と「ケアの戦略」を一本の線で結ぶこともできます。

「それでいい。今はここから」

付録:参考・出典・感謝のことば

– 出典:妊産婦のメンタルヘルスケア支援サービス導入について政策提言プロジェクト開始/PR TIMES
– 背景補足:妊娠・産後のメンタルケア不足は、離職・生産性低下につながるとされ、企業・自治体でのオンライン相談環境の整備が急務です。妊産婦メンタルヘルスケアマニュアルや、産後うつのスクリーニングに関する厚生労働省資料などがその重要性を示しています。
– 本稿の提案や作法は、保育現場・福祉教育・育児メディア編集での経験則と、一般に公開された情報をもとに生活者目線で再解釈したものです。医療的判断が必要な場合は、地域の専門窓口や医療機関にご相談ください。

(文・笠原 藍)

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