香川の“痩せウニ”で売上と海を守る──讃岐うどん雲丹に学ぶ社長の収益モデル

データで読む現状(統計・動向・比較)

トレンドから整理します。全国的に藻場の縮小と痩せウニの増加が報告されており、同時に食品ロスが依然として高止まりしています。要因としては、海の温暖化・貧栄養化・食圧の増加、陸の規格偏重と需給調整機能の脆弱さが挙げられます。打開策はシンプルで、未利用資源の価値化需要側の標準規格(うどんなど)への組み込みによる需給の橋渡しです。

指標日本全体香川県/瀬戸内備考
食品ロス量約464万トン/年(2023年度推計)事業系中心に相当量環境省・消費者庁公表値を参照
藻場・干潟の減少過去数十年で3〜5割縮小とされる地域も各県で磯焼け被害を報告評価手法により差あり
痩せウニの増加複数地域で課題が顕在化瀬戸内で除去と蓄養の試行香川の「讃岐うどん×ウニ」プロジェクトなど
うどん関連市場国内数千億円規模と推定香川は観光需要の核インバウンド回復の追い風あり

現場感覚に基づいた定量イメージも置いておきます。痩せウニは身入りが薄く、そのままでは商品価値が低いものの、蓄養(給餌による身入り改善)や加工(ペースト・だし化)によって付加価値化が可能です。仮に香川県内で保全目的の除去対象となる痩せウニの一部(例:年間50〜150トン)を回収・加工できるとします。加工歩留まりを40〜60%、B2B用1kgあたり単価を3,000〜8,000円と仮定すると、原材料売上は0.6〜7.2億円/年のレンジが見えてきます(あくまで試算です)。

シナリオ痩せウニ回収量加工歩留まりB2B平均単価原材料売上うどんメニュー展開付加価値(粗利)
控えめ50t40%3,000円/kg0.6億円100万食×+150円1.5億円
標準100t50%5,000円/kg2.5億円200万食×+250円5.0億円
攻め150t60%8,000円/kg7.2億円300万食×+400円12.0億円

損失回避の観点から、「失うコスト」も見える化します。藻場1haの生態系サービス価値(稚魚育成・水質浄化・ブルーカーボンなど)は評価手法により幅がありますが、年間数百万円〜数千万円相当と見積もられるケースも報告されています。瀬戸内沿岸で失われる藻場が毎年数十〜数百ha規模になれば、将来の漁獲や観光、炭素価値を含む「逸失便益」は十億〜百億円レベルに膨らむ可能性があります。

これに対し、痩せウニの除去・蓄養・加工に要する直接コストは、仕組み化すればトン当たり数十万円程度まで逓減しうると考えられます。つまり、何もしない状態や、点的・単年度の対策は、長期的には最も高い選択肢になってしまうということです。中小企業の社長にとっては、「どのレベルまで投資すれば、どの程度の損失回避と追加収益が見込めるか」を、こうしたレンジ感で押さえておくことが重要です。

需要側の受け皿も良好です。香川のうどんは観光・地元需要の双方で安定した回転を持ち、メニュー改変の弾性が高い業態です。インバウンド回復により、「ご当地×高付加価値」メニューの受容性も戻りつつあります。うどん事業者にとって雲丹素材は扱いが難しいイメージがありますが、だし・ペースト・乾燥粉末といったオペレーションしやすい規格品にしておけば、現場負担を抑えながら単価と来店動機を同時に引き上げることができます。

ここで鍵になるのが「限定商品だから高い」ではなく、「使わないことの方が機会損失になる」という見せ方です。繁忙期に出せないことで発生する逸失売上、SNS露出機会の逸失、食材の話題性を提供できず客単価が伸びないことなどを、「使わないリスク」として定量的に示すことで、導入をデフォルトの選択に近づけることができます。

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