香川の“痩せウニ”で売上と海を守る──讃岐うどん雲丹に学ぶ社長の収益モデル

政策と現場のギャップ

制度疲労と実務負担

政府の資源管理と食品政策は、それぞれ合理性がありますが、現場での接合が弱いという課題があります。漁業側では、痩せウニ除去が「保全事業」の枠に留まりやすく、事業費は単年度・補助金依存になりがちです。成果指標は除去量・面積に偏り、藻場回復・漁獲改善・炭素吸収といったアウトカムとの紐付けが弱いのが現状です。

食品側では、HACCPや表示法、規格化、価格転嫁のプロセスを中小企業が単独でこなすのは難しく、結果として「良いが売れない/作れない」谷間が広がります。さらに、海と陸のデータは縦割りで、KPIの連結(除去 → 藻場回復 → 素材供給 → 商品販売 → 観光消費 → 税収)が見えません。この「制度疲労」を放置しますと、痩せウニは費用項目、食品ロスは埋没費用(サンクコスト)として積み上がり続けてしまいます。

中小企業の視点

中小の食品事業者は、原価高・人手不足・設備更新・規格対応という四重苦に直面しています。新素材の採用は魅力的ですが、在庫リスクとオペレーション負担が怖いのが本音です。ここで効いてくるのが損失回避の設計です。

例えば、共同調達・共同在庫(地域商社や漁協がプール)、SKU数を絞った規格品(だし・ペースト・トッピングの3種)、ロット保証(成果連動資金で在庫コストを吸収)、販促同梱(POP・ストーリー・QR)をセットで用意すれば、「使う方がリスクが小さい」という行動環境をつくることができます。行政は、補助金配分だけでなく、「不使用の方が高くつく」会計の開示(機会損失会計)を促し、金融機関は短期運転資金のブリッジを迅速に供給することが求められます。

研究者や支援機関は、品質規格・官能評価・保存技術などのエビデンスを蓄積し、現場の意思決定を確率で支える役割を担います。食品ロスや海洋環境と経営を接続する最新の資料としては、農林水産省・環境省・消費者庁の取り組みがまとまった「食品ロス削減の現状」特集なども参考になります。

制度課題現場への影響改善の方向
単年度・補助金依存除去が点で終わり、持続化が難しくなります。PFS/SIBでアウトカム連動・複数年化を図ります。
ガバナンスの分断海と陸のKPIが連結しません。「海 → 食品 → 観光」KPIの統合ダッシュボードを構築します。
規格・表示の負担中小の採用が進みにくくなります。共同工場・HACCPサポート・標準化レシピで支えます。
在庫・価格転嫁の不安採用の意思決定が遅れます。ロット保証・共同在庫・推奨価格制度でリスクを軽減します。

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。