
香川の“痩せウニ”で売上と海を守る──讃岐うどん雲丹に学ぶ社長の収益モデル
解決案:制度・人材・財政の再設計

ここからは、「政府」「企業」「市場(需要)」「現場(漁協・加工)」「地域金融・大学・市民」という主体ごとに役割を整理します。中小企業の社長にとっては、「自社はどのレイヤーで何を担うべきか」を具体的にイメージしていただくパートです。
政府の役割は、制度の接合を担うことです。
1) 痩せウニ除去・蓄養・加工・販売を一体で認可する「痩せウニ資源循環スキーム」を県要綱で創設します。
2) 成果連動型民間委託(PFS/SIB)を導入し、KPIを「藻場回復面積」「痩せウニ回収量」「商品売上」「観光消費」「CO₂吸収」に設定します。
3) ブルーカーボン計測の簡易プロトコルを自治体・大学と整備し、クレジット試行を開始します。
4) 地域団体商標/GIを検討し、「讃岐うどん雲丹」の品質基準(原料・製法・表示)を確立します。
5) 漁業権の運用を柔軟化し、蓄養や共同工場へのアクセスを確保します。
6) 食品衛生・HACCPの共同支援デスクを置き、小規模事業者を伴走支援します。
企業の役割は、規格と販路で稼ぐことです。
1) 最小SKU(だし・ペースト・トッピング)の3点セットを統一規格・ロットで共同調達します。
2) 県内外のうどん店・百貨店・ECへ段階展開(B2B先行 → B2C)します。
3) 標準レシピと原価設計を共有し、価格転嫁のロジックを明示します。
4) トレーサビリティQRで「藻場 → 加工 → 店舗」のストーリーを可視化します。
5) シーズナル企画(春の新物、藻場回復月間)で話題化します。
6) フードロスの側面では、規格外食材の併用(パン粉・麺端・野菜端材など)でメニュー化する「アップサイクル・ペアリング」を構築します。
市場(需要)の役割は、選好で支えることです。
1) 観光・飲食メディアと連携し、「食べることが保全になる」選択肢を標準にします。
2) コンビニ・量販店の地域棚で「讃岐うどん雲丹」監修商品を季節限定で展開し、基礎需要をつくります。
3) ふるさと納税の返礼品にセットを組み、試食から定期便へつなげます。
4) インバウンド向けには英語・繁体字の説明カードを標準添付し、「海の再生」ストーリーを訴求します。
損失回避の設計として、限定数・販売期間・価格階段を明記し、「買わないと逃す」シグナルで初速を作ることも有効です。
現場(漁協・加工)の役割は、品質と効率を握ることです。
1) 痩せウニの回収ルール(サイズ・密度・期間)を設定し、藻場ダメージと供給のバランスを管理します。
2) 蓄養技術(給餌・水温・期間)の標準操作手順書(SOP)を共同で整備します。
3) 加工は共同工場でHACCPに適合させ、歩留まり・衛生・官能評価のKPIを共有します。
4) 物流は冷凍・冷蔵の二本立てとし、だし・ペーストは冷凍、トッピングはIQF(個別急速冷凍)を基本にします。
5) 廃棄が発生した場合はリワークレシピ(スープベースや粉末化)を用意し、ロス率を1桁台に抑えます。
地域金融・大学・市民の役割は、知と資金の循環をつくることです。
1) 地域金融はリボルビング・ローン(売上連動の返済設計)と運転資金の素早い供給で、「やれば返せる」構造を支えます。
2) 大学は品質評価・ブルーカーボン測定・行動経済の実験設計でデータを蓄積し、エビデンスベースの議論を可能にします。
3) 市民はモニター消費と体験参加(藻場見学・加工体験)で一次情報の伝播役になります。
4) ESG投資は「自然資本×地域ブランド」の枠組みで評価指標を整備します。
5) 県・市は「買わないと損」という行動を促す実験(メニューのデフォルト選択、寄付付き商品の既定値)を制度内で試行します。
| KPI | 初年度 | 2〜3年目 | 4〜5年目 |
|---|---|---|---|
| 痩せウニ回収量 | 50t | 80〜120t | 150t以上(安定化) |
| 藻場回復面積 | +10ha | +30〜50ha | +80ha |
| 商品SKU | 3 | 5〜7 | 10(外販含む) |
| 参加店舗(県内) | 100 | 200〜300 | 400(県外含む) |
| 関連売上 | 2〜5億円 | 5〜10億円 | 10〜20億円 |
| 食品ロス削減 | 100t | 300t | 500t |
短期・中期・長期の工程表としては、短期(0〜12カ月)に制度要綱整備・共同工場の衛生認証・最小SKUの規格化・県内100店舗導入・ダッシュボードβ版公開を行います。中期(1〜3年)では、PFSで民間資金を呼び込み、県外展開とインバウンド商品化、ブルーカーボンクレジット試行を事業に内在化します。長期(3〜5年)では、地域団体商標の認知定着、海外販路のテスト、藻場回復KPIの安定達成、学校給食や病院食へのローカル・プロキュアメントを組み込みます。
総括:未来志向の経済システムとは
「未利用資源 → 制度化 → ブランド → 収益 → 再投資」という循環を、香川は「讃岐うどん雲丹」で回し始めています。損失回避の心理に沿い、やらないコストの可視化と、やる選択のデフォルト化を組み合わせると、現場は想像以上に動きやすくなります。政府はKPIで接合し、企業は規格と物語で市場を開き、市場は選好を通じて保全に投票し、現場は品質と効率で応える——そのような未来志向の経済システムを構想できます。
もしどこかの前提が誤っているとすれば、それは数字のレンジや工程の順序で微修正が可能です。重要なのは、海の回復と稼ぐ力を二者択一にしない設計思想です。香川から始まるこのモデルは、瀬戸内、ひいては全国の沿岸地域が直面する課題に対する、具体的で再現性のある解答になりうると考えられます。
付録:参考資料・出典・謝辞
出典:
・香川に新しい食のブランド「讃岐うどん雲丹」が誕生 瀬戸内海の「磯焼け」と「フードロス」の課題解決へ【香川発】(MSN経由)
URL: MSNニュースリンク
・香川の「讃岐うどん×ウニ」プロジェクト(海と日本プロジェクト)
・食品ロスの最新推計(環境省・消費者庁・農林水産省)
・ブルーカーボンと藻場保全に関する環境省資料 ほか。
追加参考:入力の補足情報(未利用資源のブランド化、地域経済の新収益モデル)に準拠しています。数値は一次情報を優先し、明記のないものは推定レンジとして示しています(※推定値ですので、最新統計は公式資料をご確認ください)。
要約
・痩せウニ(未利用資源)を「讃岐うどん雲丹」によって資産化し、磯焼け(藻場の消失)と食品ロスを同時に解決する制度・市場・財政の統合モデルを提案します。
・損失回避の心理に沿い、「やらないコスト」の可視化で関係者の行動を促進します。
・PFS/SIB、ブルーカーボン計測、地域団体商標、共同工場、共同在庫、標準レシピ、QRトレースなど、具体的な実装策を提示します。
・短中長期のKPIを設計し、香川から瀬戸内、全国への波及可能性を持つモデルとして位置づけます。
短中長期提言
- 短期(0〜12カ月):県要綱で「痩せウニ資源循環スキーム」を創設します。最小SKU(だし・ペースト・トッピング)を規格化し、共同工場のHACCP取得を進め、県内100店舗導入を目指します。KPIダッシュボードβ版を公開します。
- 中期(1〜3年):PFS/SIB導入で民間資金を呼び込みます。ブルーカーボンクレジット試行を事業に内在化し、県外・インバウンド向け商品を展開します。地域団体商標/GI取得を進めます。
- 長期(3〜5年):藻場回復KPIの安定達成を目指します。海外販路をテストし、学校・病院などのローカル・プロキュアメントに組み込みます。観光税やふるさと納税との連携を強化し、地域全体の収益構造を強くします。
(文・石垣 隆)















この記事へのコメントはありません。