
日本の選手保護は“信頼インフラ”です――スポーツ・健康産業が損失を防ぐ実装ロードマップ
国際比較と制度デザイン
英国CPSUの示唆をどう活かすか
英国では、児童保護団体NSPCCが運営するChild Protection in Sport Unit(CPSU)が、スポーツ領域のセーフガーディングを支えています。CPSUは、競技団体横断の基準・評価枠組み、階層別研修、事案対応ガイダンス、独立した助言・監督の機能を持ち、現場が迷わないように設計されています。(参考:NSPCC Child Protection in Sport Unit / What is safeguarding in sport?)
日本でも、スポーツ庁や日本スポーツ協会がセーフスポーツのガイドブックを公開し、米国SafeSportなどの事例を整理しています。たとえば日本スポーツ協会の「諸外国から学ぶセーフスポーツ」資料では、未成年アスリートに対する虐待予防ポリシー(MAAPP)やセーフスポーツコードの構造が紹介されており、「基準・教育・対応・学習」を一体化する重要性が示されています。(参考PDF:諸外国から学ぶ セーフスポーツ)
「基準・研修・検証が一体になっていると、現場は迷わず動けます。」
海外事例の教訓
輸入・国産化・日本適合の三分法
- 輸入したい要素:通報・調査の独立性、階層別研修、事後学習共有の枠組みなどの「骨組み」です。
- 国産化したい要素:学校部活動と地域クラブの接続規範、保護者会との協働モデル、自治体の関与設計など、日本固有の教育・地域構造に根ざした部分です。
- 日本に合う形で調整したい要素:小規模チームでも回せる軽量プロトコル、匿名相談と面前介入の併用、記録と情報共有の簡素化ツールなどです。
中央集権型の利点
- 基準の一貫性を保ちやすいです。
- データを集約しやすく、学習が加速しやすいです。
- 対外的な信頼(スポンサー・行政)を得やすいです。
分散型の利点
- 現場の実情に合わせた柔軟な対応がしやすいです。
- 初動を迅速に行いやすいです。
- 競技特性や地域文化に合わせた設計が可能です。
ハイブリッド案
- 中央は基準・検証・監督を担います。
- 現場は一次対応と日常的なケアを担います。
- データと支援は双方向に流れる仕組みを整えます。
核心:構造的ボトルネックの可視化
人材・仕組み・資金・評価の四象限
- 人材:セーフガーディング責任者(Safeguarding Lead)の役割が不明瞭で、兼務による疲弊が起きやすいです。
- 仕組み:通報→初動→調査→支援→学習という一連のフローが分断され、校種や団体ごとに仕様がバラバラです。
- 資金:研修や調査にかかる費用が「特別な予算」として扱われ、恒常費として定着していないケースが多いです。
- 評価:KPIが「件数を減らすこと」に偏り、早期発見・回復支援・再発防止の質を評価しにくい構造になっています。
四象限からロードマップへつなぐ視点
四象限の詰まりは連鎖します。人材が薄ければフローは止まり、フローが止まれば学習は起きず、学習がなければ資金はつかず、評価は絵空事になります。ここからの道筋は、(1)役割の明確化、(2)フローの標準化、(3)費目の平時化、(4)評価の再設計という順番で踏むことが重要です。
この順番を誤ると、通報件数の増加が「悪化」としてだけ受け止められ、組織が防衛モードに入りやすくなります。逆に、先に指標を設計し、「しばらくは可視化によって件数が増える」ことを経営として受け止めておけば、外部への説明は一貫します。説明が揺れない組織には、スポンサーも人材も残りやすくなります。















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