ビーチバレー“恋愛ペア”に学ぶ　社長のための心の設計図

人の心に宿る揺らぎ

小さな違和感の正体

心の中に生まれる小さな違和感は、最初は砂粒のように軽いものです。けれど、靴に入り込むと歩調を狂わせます。ペアの間に走る微細なズレは、原因がひとつではありません。睡眠の浅さ、言いかけた言葉、前回の失敗、そして過去の別の誰かの影。人は現在を生きているようでいて、過去の残響を今に重ねる性質を持っています。心理学で言う転移に近い現象が、職場でも、家族でも、砂浜でも、静かに起きているのです。

クリエイティブ・デザイン業の現場で、Kさんはこう語ります。「『よく見えているね』の一言があると、心の中の霧が晴れるように感じます」。目利きの一言は、技術への評価であるだけでなく、存在の承認でもあります。承認が欠けると、心は自分を守るために防衛します。皮肉や沈黙、過度な完璧主義。砂粒は、放っておくと痛みになります。違和感を言語化することは、靴を脱いで砂を払う動作に似ているのだと思います。こうした視点は、中小企業向けチームビルディング解説記事とも共鳴する重要な経営課題です。

“There is no such thing as a baby.”

D. W. Winnicott

ウィニコットが示したのは、人は関係の中で育つという前提です。単独の「赤ん坊」は存在せず、保護者との関係そのものが自己を形づくります。ペア競技も、制作のデュオも同じです。私たちは二人で一人分の勇気を出したり、二人で一人分の迷いを抱えたりします。つまり、「あなたとの間」が、私を変えていきます。違和感の正体は、関係の温度が一度下がったとき、心に吹き込む微かな風なのかもしれません。

その痛みを言葉にするということ

「昨日の返事、少し急かされているように感じました」。T氏はSlackの短いメッセージを打ってから、送信ボタンの上で指を止めます。言葉はいつも、誰かの過去に触れる危険と隣り合わせです。けれど同時に、言葉は未来を解放する鍵でもあります。ビーチバレーでは、風向きや相手の表情を、短い合図で共有します。それは仕事でも同じです。言葉は手旗信号のように簡潔で、しかし体温のあるものでありたいと私たちは願います。

小さな言語化は、ブランドにも効きます。表現者の人生背景を、企業ブランディングにも応用できる“物語資産”として捉えるとき、過去の痛みや違和感は、語りの中で意味を持ち、価値に変わります。失敗や逸脱の経験は、単なる傷ではなく、世界を読むための辞書の一頁になります。「私もそうだ」と読者がそっと呟く場所に、ブランドの居場所は生まれます。その意味で、ナラティブで企業ブランドをデザインするアプローチは、中小企業の社長にとっても重要なヒントになります。