頂点への帰還――鹿島に学ぶ「停滞組織」を30日で立て直す社長の勝ち方

提言:挑戦を支える社会の力

ここからは、この物語を中小企業の組織再生に応用する具体策を挙げていきます。まずは「初速を上げる」ことです。就任30日でやることを三つに絞ります。

1) 朝会の設計:目的を一行で示し、「5分」「一人一言」というルールにします。
2) 役割の再配分:責任と権限の棚卸しを行い、「誰が何を決めるのか」を1枚の紙に書き出します。
3) 言葉の統一:禁止語「でも」「しかし」を「ならば」に置き換える習慣を、経営陣から徹底します。

次に、「勝ち筋の可視化」です。最小の成功指標を週次で共有し、「誰のどの行動がその結果につながったのか」を明示します。最後に、「越境」です。社外メンターや他部門シャドーイングを制度化し、月1回の“異種練習”を回します。大切なのは、勇気を一度きりの決断で終わらせず、「日常の運用」に変える仕組みです。

アクション目的実装のコツ効果目安
30日プレイブック初速の確保「やらないこと」も明文化します会議時間▲20%、意思決定速度↑
称賛の見える化再現性の醸成結果ではなく「行動」を褒めます心理的安全性↑、離職率↓
異種練習(越境)発想の転換他部門×現場同伴をセットにします新提案数↑、連携工数↓
ミニKPI進捗の体感週次2指標に絞ります実行率↑、残業時間↓
現場で回る「再生のプレイブック」(編集部提案)

変わるのは人です。動かすのは仕組みです。続けるのは文化です。

そして、地域の力を生かす設計が欠かせません。企業とクラブ、学校と商店街を結ぶ「共助ライン」を設けます。例えば、試合日割引と企業見学の相互送客、選手の食育講座と社員健康プログラムの連動、ホームタウンデーに合わせた職業体験などです。スポーツ×健康産業の交差点には、たくさんの機会が開いています。健康は個人の資産であると同時に、企業の競争力でもあります。ランチの15分ウォーク、立ち会議、ストレッチルーティン。こうした小さな実装が、人と組織の基礎代謝を上げていきます。

スポーツ・健康産業の取り組み事例やエビデンスについては、Jリーグ公式サイトや各クラブの健康増進プロジェクトなどでも紹介されています。社長としては、これらを自社の福利厚生やブランディング施策にどう取り入れるかを考えることが、「健康リスク=経営リスク」時代の重要なテーマになります。

展望:スポーツがつなぐ未来

未来を考えるとき、筆者はいつもスタンドの最上段に立つイメージを持ちます。そこから見えるのは、プレーの全体像と、ひとりひとりの表情です。ドローンのような俯瞰と、隣の人の鼓動を感じる近さ。その二つを同時に持つことが、これからの街と企業のリーダーに求められます。「遠くを見る目」と「近くに寄り添う耳」。スポーツはその両方を鍛えてくれます。勝敗に一喜一憂しながら、結局私たちは、隣に立つ人の背中から勇気を学びます。次の時代をつくるのは、ヒーローではなく、日常を諦めない人たちです。

照明に照らされるナイトゲームのピッチ
ナイトゲームの灯りは、街の希望と同じ色をしているように見えます。

「明日、もう一回走れるなら、俺たちはもう一回強くなれると思います」

ベンチに座るDFのささやき

テクノロジーが進み、働き方が多様になっても、変わらないものがあります。人は物語で動くということです。チームの物語、工場の物語、家族の物語。鹿島が示したのは、物語のつくり方だと筆者は感じます。挫折を正直に語り、挑戦を共有し、成長を祝い、希望を手渡す。挫折→挑戦→成長→希望というシンプルな道筋を、毎日、丁寧に反復していきます。そこに最新鋭のアプリもAIも、きっと寄り添ってくれます。私たちは、まだ走り続けることができます。

結語:希望のバトンを次世代へ

試合の帰り道、商店街の明かりが順に落ちていきます。片付けの音、笑い声、眠る犬。ポケットの中のチケットを握り直しながら、筆者は考えます。勝利そのものは、やがて薄れていきます。しかし、今日の鼓動は簡単には消えません。リーダーが変われば、組織は変わります。その変化を一筋の光に変えるのは、社長であるあなたの一歩です。チームで働くすべての人に向けて、明日の朝、誰よりも早く挨拶してみてください。机の上を5分で整えてみてください。隣の人を10秒だけ称えてみてください。そのささやかな一歩が、やがて大きな波になります。希望のバトンは、すでにあなたの手の中にあります。

「自分も頑張ろう」——その小さな誓いが、世界を少し良くしていきます。

付録:参考・出典

・一次参照:The Japan Times “How Kashima Antlers got back to the top of Japanese soccer”(2025/12/07公開)
URL: https://www.japantimes.co.jp/sports/2025/12/07/soccer/j-league/kashima-antlers-manager-effect/

・関連外部情報:JAPAN SPORTS NOTEBOOK | Kashima Antlers Return to the Top with 9th J.League Title
・クラブ・データ参照:2025 Kashima Antlers season(Wikipedia)

・取材ノート:スタジアム観戦メモ、地域商店ヒアリング、スポーツヘルス領域の専門家談話(2023–2025)

・データ出典:公開統計・リーグ公式の一般指標を基に編集部作成(本文の数値は概算・参考値です)

・免責:本稿は公開情報と現場観察をもとに、ストーリーテリングの手法で再構成しています。固有名詞や一部描写は、取材対象の匿名性保護のため抽象化しています。


要約:鹿島の再生は、リーダー交代を起点に「目的の再定義」「ルールの簡素化」「称賛の可視化」を徹底し、現場の呼吸を整えたことにあります。これは企業組織にも適用可能で、30日プレイブック、ミニKPI、異種練習が再生の初速をつくります。スポーツは地域と企業をつなぐハブであり、健康の実装が人と組織の基礎代謝を上げます。

提言:1) 就任30日で「やる/やらない」を明文化すること、2) 会議20分短縮と日次称賛の制度化、3) スポーツ×健康施策を地域と連携して越境運用することを提案します。

(文・黒田 悠真)

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