
灯は消えないーー「廃部ではない」企業野球が休む日、私たちが守るべき鼓動
成功事例:あの日、彼らが掴んだ希望
私はこれまで、いくつもの「中断」と「再開」に立ち会ってきた。実名を挙げることは控えるが、ある企業チームは、経営環境の変化で活動規模を縮小したのち、地域のクラブや学校と練習環境を共有し、公開練習を定着させた。「試合がない日にも行く場所ができた」とファンの滞在時間は伸び、近隣の商店街には新しい動線が生まれた。別のチームは、OBが中心となって「練習キャラバン」を組み、週末ごとに地域を巡った。たった一度握手を交わした少年が、数年後に同じ背番号をつけて戻ってきた瞬間、グラウンドの空気は確かに変わった。こうした物語は特別な奇跡ではない。関わる人の小さな継続が、目に見える変化を呼ぶのだ。
目の前の一人に届くとき、チームは未来と握手する。
取材ノートより(筆者)
スポーツ・健康産業の視点で見ると、「再開に向けた価値の重ね方」はいくつかのパターンに整理できる。第一に、健康プログラムとの連携。企業内で培われたコンディショニングの知見は、そのまま社員のウェルビーイング向上に活用できる。第二に、観光との接続。公開練習や地方開催のイベントは、来訪の動機になり、地域の滞在価値を高める。第三に、教育との橋渡し。競技の技術だけでなく、目標設定やチームビルディングは学校現場に直結する。これらは「練習や試合がないとできない」と思われがちだが、むしろ休部期間だからこそ集中して設計できる。
また、OBの存在は特別だ。ユニフォームを脱いでもなお、背中にはロッカーの匂いが残る。OBが関わると、現役は「この先」を想像できる。セカンドキャリアのモデルが見えると、現役のプレーの質も上がる。スポンサーにとっても、OBは「語り部」であり、企業の物語を伝えるアンバサダーだ。休部の間、OBの言葉は灯をつなぐロウソクになる。一本のロウソクで部屋全体は照らせないが、隣の人の顔を照らすには十分だ。その明かりが増えれば、再開の日の朝、グラウンドはもう暗くない。
「廃部ではない」と言えるうちは、物語は現在進行形だ。止まっているようで、再開はいつも静かに始まっている。















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