灯は消えないーー｢廃部ではない｣企業野球が休む日、私たちが守るべき鼓動

分析：チームと地域が生む相乗効果

企業スポーツの価値は、勝敗だけでは測れない。地域の暮らし、企業のブランド、健康の行動変容、教育の動機づけ——これらが絡み合った「複合体」として立ち現れる。相乗効果を生む鍵は、接点の設計にある。例えば、練習公開を「見せる」だけでなく、「一緒に動く」場へとデザインする。ウォームアップに地域の学生を招く、社員向けにコンディショニング講座を開く、商店街と連携して「勝利割」を展開する。これらは小さなアクションだが、関わった人が自分ごととして語り始める。語りは、最強の広告であり、最も温かい支援だ。

損失回避の心理を前向きに使うなら、「失うと何がなくなるか」を共に可視化することが重要だ。試合日の賑わい、少年の憧れ、地域での誇り。これらを「書き起こし」たり「写真に残す」ことは、未来へのメッセージになる。もし休部が長引いても、「なくしたくないもの」が具体的であればあるほど、人は動ける。逆に、抽象的なままだと、動きは散漫になる。だから、いま言葉にしよう。あなたにとっての「なくしたくない」は何か。選手の名前でも、あの打球音でも、あの売店の唐揚げでもいい。

スポーツ・健康産業のプレイヤーにとっても、これはチャンスだ。フィットネスジム、治療院、スポーツ用品店、旅行会社、飲食店、教育事業者——それぞれが「競技の外側」で貢献できる。共同でイベントを設計すれば、費用は薄く、価値は厚くなる。経済の合理と情熱の非合理は、スポーツの現場で美しく折り合う。合理だけでは人は動かない。非合理だけでは続かない。その中間に、スポーツは一直線の道を作ってくれる。

提言：挑戦を支える社会の力

休部の今だからできる、具体的な提案をいくつか並べたい。どれも大掛かりではないが、確実に「次」を近づける手だ。

• OB・OGネットワークの可視化：月に一度、オンラインの「クラブハウス」を開き、近況と知見を共有する。若手のキャリア相談も併設。
• 地域との共創プログラム：公開ウォームアップデーを設定し、地域の子ども・保護者・シニアの「歩く」「伸ばす」を一緒に。
• 社内ウェルビーイングの接続：社員向けに「野球部式・疲れない体の使い方」講座を展開。休部の意義を社内の健康で可視化する。
• マイクロサポート制度：小口の支援を募り、用途を「用具のメンテ」「練習場の整備」「指導会の交通費」などに明確化。支援と成果を必ず見える化。
• 記録の保存：写真・音声・文章で、日常の練習や声をアーカイブ化。再開の日の「資産」に。

これらは、休部の「静けさ」を「準備のざわめき」に変える装置だ。重要なのは、チームだけに任せないこと。ファンも地域も企業も、それぞれの立場で一つだけ行動を増やす。「一緒に守る」は、最強の合言葉になる。