2026年、人材争奪戦で沈む会社・伸びる会社――管理職疲弊・年収の壁・生成AIへの一手

現状分析:個人と企業のギャップ

現状を一言でまとめると、「人は学び、会社は変われるが、その間にある『設計』が足りていない」状態だといえます。個人はキャリアの自由度を増し、複業・リモート・短時間正社員など多様な就労形態を選んでいます。一方で、企業の制度設計は「フルタイム前提」「管理職一択」「対面前提」のまま止まっているケースが少なくありません。

その結果として、採用広報でうたう「柔軟な働き方」と、実際の評価・給与・役割設計が噛み合わず、入社後早期にミスマッチが発生しやすくなっています。教育・人材育成業界では、繁忙期の偏りや対面イベントの多さから「柔軟運用が難しい業界だ」という思い込みも生まれがちですが、実際には「ジョブ設計」と「ラインの再編」で解ける課題が大半です。

もう一つの大きな課題は、管理職の仕事過多が採用・育成のボトルネックになっていることです。研修設計や講師アサイン、クライアント折衝、評価面談、採用面接などがすべて「マネージャーがやるべき」と積み上がり、意思決定が遅延しがちです。優先順位が曖昧なまま、現場は“善意の残業”で埋め合わせる悪循環に陥ります。

こうした職場には、優秀な個人ほど定着しません。理由はシンプルで、「自分の成長が止まる」と感じるからです。成長機会を測る指標のひとつに「裁量の質」があります。AIや外部人材に任せられる仕事を手放し、マネージャーが「人にしかできない意思決定と対話」に集中できる環境づくりこそが、採用力と定着力の源泉になります。

一方で、「年収の壁」緩和は、採用母集団を拡大する大きなチャンスです。制度が変わっても、社内の勤務区分や給与体系が追随していなければ、応募は増えません。ポイントは三つあります。(1)短時間正社員制度を「初日から選べる」オプションとして明文化すること。(2)週20〜30時間帯での社会保険加入前提モデルを複数提示すること。(3)職務の成果基準をFTE換算で透明化することです。

これにより、育児・介護・学業・地域活動と両立する高スキル人材の参入障壁が下がります。教育・人材育成の現場では、現役の実務家が講師やメンターとして関わる設計が、学習の質を底上げします。先に「枠」を作った企業から、優秀層は動いていきます。

リスクとして見逃せないのは、生成AIの「道具止まり」です。個人レベルでは使いこなせる人が増えていても、組織として成果につながらないケースが目立ちます。よく見られるのは、利用規程だけ整えて現場任せにしてしまうパターンです。AIは「サンプル・標準・検証」の運用三点セットがなければ、品質のばらつきと情報漏洩の不安だけが残ります。

さらに怖いのは、AIに置き換え可能な業務に人が張り付いたまま、粗利がじわじわと圧迫されていくことです。売上を伸ばしているのに、不採算が消えない。ここでの損失は、気づいたときには手遅れになりがちです。だからこそ、AIの仕事配分は「現場任せ」ではなく「全社の設計課題」として扱う必要があります。

「採用を強化する前に、マネージャーの役割を半分にしました。結果、内定辞退率が下がり、定着率が上がりました。負担を減らすことは、温情ではなく構造改革だったのだと実感しています。」

人材育成ベンチャー COO(実名非公表)

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