
キャラクター・ラブブ(LABUBU)を生み出したポップマートの株価が大きく下落
ラブブ・バブルの実像とデータ
「ラブブ・バブル」とは? 経済的定義
本稿における「ラブブ・バブル」とは、以下の3条件を同時に満たす状態をいう。
- 需給の逼迫:限定生産・抽選販売・転売市場のスプレッドが持続的に拡大
- 期待の転写:短期的な完売速度が長期的な売上成長・収益性に過大反映
- 資本市場の増幅:プレミアムの一部が株価のマルチプルに織り込まれる
この構造は、限定スニーカーやトレカ市場でも観察される。相違点は、IP(知的財産)単位のヒット依存度が極めて高いことだ。IP集中が進むと、企業全体のフリーキャッシュフロー(FCF)が実質的に単一IPの販売速度・在庫回転に依存する。市場がこれを認識し、プレミアムが剥落すると、収益期待とマルチプルの双方が同時に縮小する。
データが示す「不都合な真実」
ニュースは「4カ月で2,000億HKD蒸発」と明示している。これを足場に、需給と期待の崩落過程をインデックスで可視化する。
| 月 | 時価総額指数(T-4=100) | 月間出来高指数(T-4=100) | 売買回転率(%) | 注記 |
|---|---|---|---|---|
| T-4 | 100 | 100 | 12 | ピーク近辺、転売市場プレミアム最大 |
| T-3 | 88 | 130 | 16 | 初期の利確売り・ニュース駆動の回転上昇 |
| T-2 | 75 | 160 | 21 | 信用の巻き戻し、下落に伴う出来高拡大 |
| T-1 | 62 | 150 | 18 | リバウンド試行も売り厚く戻り売り |
| T | 50 | 120 | 14 | 時価総額は4カ月で半減(2,000億HKD相当) |
注:指数は概念化したものであり、時系列の姿を示すためのもの。実数は公表ベースで別途確認が必要。
価格の過熱はマルチプルの張り付きに現れる。一般にキャラクター・トイ企業のバリュエーションは売上高倍率(P/S)と営業利益倍率(EV/EBIT)で評価されることが多い。ヒットIPの在庫回転が高い局面では、P/Sが同業平均を大きく上回る。
| 企業 | 市場 | P/S | EV/EBIT | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| ポップマート | 香港 | 8〜12倍(ピーク時)→ 4〜6倍(足元) | 30〜40倍(ピーク時)→ 15〜25倍(足元) | IP集中度高、プレミアム圧縮 |
| 大手玩具A | 米国 | 2〜3倍 | 12〜18倍 | IP分散、長期ライセンス |
| アジア玩具B | アジア | 1〜2倍 | 10〜15倍 | 汎用品比率高 |
注:具体社名・実数は公開資料で要確認。上記は市場慣行レンジの説明を目的とした概念値(※推計)。
さらに、IP依存の度合いが財務に与える影響を可視化する。
| 指標 | 定義 | 試算値 | 1pt悪化の営業利益影響 |
|---|---|---|---|
| トップIP売上比率 | 最大IPの売上比率 | 35〜50%(※推計) | −0.6〜−0.9%pt(営業利益率) |
| 在庫回転日数 | 365÷在庫回転率 | 40→60日(悪化シナリオ) | −1.0〜−1.5%pt |
| 転売プレミアム | 二次市場価格/小売価格−1 | +80%→+10%(収斂) | 需給剥落→売上成長率下方圧力 |
注:財務感応度は標準的な原価構造を仮定した概念試算。正確な推計には決算注記の詳細が必要。
要するに、「売れるから高い」のではない。「売れるように見える需給ショック」が「期待を高く見せた」結果、マルチプルが過熱したにすぎない。需給ショックが剥落すると、期待の層が一枚ずつ剥がれていく。これが時価総額2,000億HKDの蒸発という現象の、定量的中身である。















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