
【178万円】年収の壁引き上げで中小企業はどう変わる?現場が直面する調整と課題を解説
期待と現実のギャップ:178万円への引き上げが生む現場の調整
「助かる」「まだ不十分」「もっと根本を」—SNSは相変わらず多声的だ。家計の側は、178万円なら働きやすくなるという期待を口にする。一方、中小企業の現場からはこんな声がある。「人が来ない、来ても壁手前でシフトを抑える。178万円に上がるなら助かるが、結局は新しい壁の前で止まるだけでは」(都内・縫製業事業者、匿名)。
現場で何が起きるのか。第一に、シフト設計の全面見直しだ。178万円のラインを意識した年間調整が、これまでの「130万円手前調整」からスライドする。第二に、社会保険の適用と負担の再配分だ。制度の詳細次第だが、事業主負担や事務コストは無視できない。第三に、賃上げ施策との相性。時給を上げれば壁に早く到達する—このジレンマは、ラインを動かしただけでは消えにくい。
政治は壁を“延長”するが、企業はその延長線にあわせて“雇用”を調整する。損失回避に基づく合理的行動だ。政治も企業も嘘はついていない。ただ、社会の最適からは微妙にズレる。
働く当事者は、家計アプリとにらめっこし、雇用主はExcelで年間の「壁手前最適化」を組む。そこで消費されるのは、可処分所得ではなく、可処分時間だ。壁が高くなれば、「余裕」が増える人もいる。だが、壁がある限り、判断コストは消えない。ここが「家計は救えても、社会は歪む」。
178万円への引き上げで何が変わる?よくある疑問と現実
Q. 178万円になれば、本当に「働き損」は解消される?
A. 一部は緩和される可能性があるが、完全解消ではない。壁を動かせば、行動の山が移動するだけ—いわば「渋滞の引っ越し」に近い構造だ。加えて、税・社保・助成の複層構造は残る可能性が高い。短期の安心はあるが、長期の労働供給と賃金構造の歪みは、別の手当てが要る。
Q. 中小企業の負担はどうなる? 価格転嫁できるのか?
A. 制度詳細と併用される支援策次第。2023年の支援策では事業主向け支援金が用意されたが、申請負担や対象要件の複雑さが壁となったという指摘もある。人件費増は価格転嫁で吸収するのが定石だが、需給環境が弱い業種では難しい。結果として、雇用調整(シフト抑制・短時間化)で対応する合理的行動が起こりやすい。
Q. そもそも「壁」をなくせないの?
A. なくすには、税・社保・給付を通じた「なめらかな負担・給付曲線」を設計する必要がある。例えば、クレジット方式(所得に応じて連続的に控除が逓減)や、負担増を段階ではなく微分可能な関数で設計する考え方だ。ただ、移行には財源・制度統合・IT実装の大仕事が要る。政治的には“合意可能な小さな一歩”が選ばれやすい。
Q. 「損失回避」を逆手にとった政策って、アリ?
A. 短期の安心を提供するという点では“アリ”だ。ただし、長期の歪みを拡大しない仕掛け(期限、検証、段差の連続化)をセットにするのが条件だ。心理に寄り添う政策は強いが、心理だけに寄りかかる政策はもろい。今回の「178万円」は、その分水嶺に立っている。















この記事へのコメントはありません。