
働く障害者は70万人超、法定雇用率達成企業は46%—中小企業が競争力を生む障がい者雇用設計ガイド
解説・執筆:白石 亜美
「やらなきゃ」と「できる」は別物です。法定雇用率の話を聞くたびに、ため息をついた方もいるでしょう。でも、変えられます。全国ではすでに多くの中小企業が、現場に合った工夫で一歩を踏み出しています。この記事は“評論”ではなく“実装”。あなたの組織で明日から動けるよう、90日で成果をつくる実践手順を示します。
目次
- 障がい者雇用は競争力になる——法定雇用率時代の採用と仕事設計
- 「法定雇用率」とは?基礎知識
- 中小企業が直面しやすい、障がい者雇用の「5つの壁」
- 特別な投資はいらない——仕事の切り出しから始まる成功事例
- 中小企業の疑問に答える——障がい者雇用・実践Q&A
- 明日から始められる、障がい者雇用の3ステップ実装法
- 雇用率の先へ——価値が生まれ続ける組織をつくる
障がい者雇用は競争力になる——法定雇用率時代の採用と仕事設計
最新の報道によれば、日本で働く障害者は70万人を超え、過去最多となりました。一方で、法定雇用率を達成した企業は46%。半数以上が「壁」の前で足を止めています。数字だけ見れば重い現実ですが、視点を変えれば明確なシグナルです——今、採用と仕事設計を見直した企業から競争力を手にしているのです。
法定雇用率は段階的に引き上げられています。一般に、一定規模(概ね40〜45.5人以上)の企業には、障害のある人の雇用が求められ、未達の場合は納付金、達成・超過の場合は調整金・報奨金などの制度が適用されます。制度は負担のためにあるのではありません。「できる範囲から始めて、戦力化する」ための枠組みなのです。
何から始めるべきか。それは「求人」ではなく「仕事」の再設計です。いま多くの中小企業が、業務プロセスを分解し、適性に合わせて“仕事を切り出す(ジョブカービング)”ことで、小さな確実な成功を積み上げています。社会は動いています。あなたの会社も追いつけます。むしろ、追い越せます。
「雇用はコストではなく、プロセス改善のトリガーなのです。」
「法定雇用率」とは?基礎知識
法定雇用率は、障害者雇用促進法に基づき、企業や自治体などが雇用すべき障害者の割合を定めたものです。対象は企業規模によって異なり、一定規模以上の企業には一人以上の雇用が求められます。雇用のカウントには、障害の種別や就業形態に応じた取り扱いがあり、短時間雇用や在宅勤務も条件を満たせば対象となります。制度を「難しい」と遠ざけるのではなく、Q&Aやガイド(ハローワーク、地域障害者職業センター)が手厚いことを知り、伴走者を増やしましょう。
| 項目 | 要点 | 実務のヒント |
|---|---|---|
| 対象となる企業 | おおむね常用労働者40〜45.5人以上で雇用義務 | 「1人目」を早期に確保することで運用が安定 |
| 雇用率 | 段階的に引き上げ(最新情報は官報・厚労省で確認) | 前倒しで設計すると採用市場で優位に |
| 納付金・調整金 | 未達は納付金、達成・超過は調整金・報奨金 | 費用対効果を年単位で評価(下表の算式例参照) |
| 雇用形態 | 常用・短時間・在宅も要件満たせば算定対象 | 職務はジョブカービングで適性化 |
| 支援機関 | ハローワーク、地域障害者職業センター、就労支援事業所、ジョブコーチ | 採用前から「職場実習→雇用」でミスマッチを減らす |
多くの企業がつまずくのは「制度の言葉」が先行して現場が置いていかれる瞬間です。制度理解は必要条件ですが、十分条件ではありません。鍵は「どの仕事なら、誰に、どう任せれば価値が出るか」を再設計すること。ここから実務が動きます。
中小企業が直面しやすい、障がい者雇用の「5つの壁」
障がい者雇用に取り組もうとする中小企業の多くが、最初の一歩で立ち止まってしまいます。その原因は「やる気がないから」ではありません。むしろ、情報不足と仕事設計の難しさが、見えない壁となって立ちはだかっているのが実情です。
特に多いのが、「どんな仕事を任せればいいかわからない」「配慮の線引きが不安」「社内にノウハウがない」といった声です。結果として、求人票を書けず、相談先も定まらないまま時間だけが過ぎていきます。しかし、これらの壁は構造的なものであり、視点を変えれば一つずつ解消できます。
| よくある壁 | 現場で起きていること | 本質的な課題 |
|---|---|---|
| 何の仕事を任せればいいかわからない | 「今の業務は全部忙しい」と感じてしまう | 業務が分解されておらず、属人化している |
| 障がいへの配慮が不安 | どこまで配慮すればよいか想像できない | 配慮=特別対応という思い込み |
| 採用後の定着が心配 | 続かなかった事例を聞いて踏み出せない | 仕事と期待値のすり合わせ不足 |
| 社内の理解が得られない | 現場が「負担が増える」と感じている | 目的とメリットが共有されていない |
| 制度や支援機関が難しそう | 手続きが複雑そうで後回しになる | 情報が点在し、整理されていない |
壁の正体は「障がい」ではなく「仕事の設計」
重要なのは、これらの壁の多くが障がいそのものではなく、企業側の仕事の作り方に起因しているという点です。実際に採用がうまく進んでいる企業ほど、「新しい人を入れる」より先に、「業務を分ける・見直す・言語化する」ことに取り組んでいます。これは障がい者雇用に限らず、業務効率化や人材定着にも直結するプロセスです。つまり、障がい者雇用は負担ではなく、会社の業務を強くするための入口とも言えるのです。
特別な投資はいらない——仕事の切り出しから始まる成功事例
障害者雇用の成功は「ドラマチックな投資」ではなく「地道な再設計」から生まれます。以下は、地方の中小企業で実際に起きた変化を、機微や固有名詞が特定されないよう配慮して再構成したケーススタディです。共通点は、最初の一歩を「仕事の切り出し」から始めていること。みんな、やっています。あなたもできます。
ケース1:製造業(従業員80名)—「段取りの見える化」で不良率が3割改善
検査・清掃・補充など、5〜15分の細切れ業務が“すき間”として現場に散らばっていました。業務棚卸しでこれを束ね、チェックリスト化。1日3回の定点タスクとして任せたところ、ライン停止の原因だった軽微なミスが激減。ジョブコーチと連携し作業手順を写真付きにしたことで、属人化も解消しました。
ケース2:ITサポート(従業員45名)—在宅×短時間の「データ整備チーム」で納期短縮
バックログだったデータクレンジングを在宅の短時間勤務で切り出し。朝にバッチ処理の進捗を10分共有、午後に検収というリズムを固定。PCとソフトのアクセシビリティ設定を標準化し、作業ログで成果を可視化。結果、営業提案までのリードタイムが平均2日短縮し、失注率が低下しました。
ケース3:小売・物流(従業員60名)—「店頭からバックヤードへ」の走るDX
品出し・値札貼り・在庫整理をアプリで指示し、写真で完了報告。休憩室を静かな場所に移して集中を担保。週1回の“うまくいったこと共有会”で、現場のアイデアが自然と改善提案へ。結果、バックヤードの滞留が解消、店頭スタッフの接客時間が増え、売上の山が滑らかになりました。
重要なのは、効果が「雇用のための雇用」を超えて、事業のKPI(不良率・納期・顧客満足)に直結した点です。障害者雇用は「善意」では続きません。事業の勝ち筋に結びつく設計こそが定着の鍵なのです。
「配慮は“特別扱い”ではなく“働きやすさの標準化”でした。結果として、全員の生産性が上がったのです。」
地方中小企業 経営者
中小企業の疑問に答える——障がい者雇用・実践Q&A
Q1. 45人規模の会社、最初の「1人目」をどう採用すべき?
A. 結論:求人前に「1日の仕事の流れ」を決めましょう。
採用の失敗は“人探し”から始めること。まず、実務担当者と現場を歩き、5〜15分のタスクを洗い出して1日の山崩しを設計します。そのうえで、就労支援機関に「現場見学→職場実習」を依頼。実習で適性と配慮事項を確認し、本人と職場の「合意メモ(配慮リスト)」を作成してから雇用へ。これでミスマッチは劇的に減ります。
Q2. 現場から「教える余裕がない」と反発が出ます。
A. 結論:「10分×週1」の共有会で、教える時間を投資から回収へ。
教える時間はコストに見えますが、標準化の投資です。写真手順書・動画マニュアル・見える化ボードを整備し、週1回10分の“うまくいった共有”を実施。完璧を求めず、成果の可視化(処理件数や不良率)で「戻り工数の減少」を実感してもらいましょう。ジョブコーチの同行は現場の心理的安全性を高めます。
Q3. 在宅や短時間勤務でも、雇用率カウントや評価はできますか?
A. 結論:要件を満たせば算定対象。評価は「プロセス」ではなく「成果物」で。
在宅・短時間でも就業実態があり要件を満たせばカウント対象です(最新の取り扱いは公的資料を確認)。評価は「何分働いたか」ではなく「タスク完了・成果物」で統一。日報はチェックリスト形式にして、進捗を色で可視化すると認識の齟齬が減ります。
Q4. 特例子会社を作るべきか、直接雇用で始めるべきか迷います。
A. 結論:人数と業務の集中度で判断。最初は直接雇用×ジョブカービングが王道。
10人未満なら直雇用が現実的です。既存プロセスの“すき間業務”を切り出し、品質指標を先に決める。5〜10人以上を見込むなら、業務を集約できるか、地域資源や親会社との連携で回せるかを検討。どちらにせよ、最初の1〜2人を成功させることが最大の学習になります。
明日から始められる、障がい者雇用の3ステップ実装法

実装はシンプルに。「Lv.1 → Lv.2 → Lv.3」と段階を踏み、90日で回しましょう。ここからは、明日から使える手順とテンプレートです。やるべきことは、すでに多くの中小企業がやっていること。社会的証明が味方です。
Lv.1(Day 1–30):見える化と小さな運用
- 業務棚卸し:5〜15分タスクを50個書き出す(現場同席)
- ジョブカービング:似たタスクを束ねて1日の「山」を作る
- 写真手順書:1タスク1枚、開始・終了・注意点を明文化
- 採用パートナー選定:就労支援機関、地域障害者職業センター、ハローワークへ相談
- 職場実習枠を設定:2週間×午前のみ、評価指標は処理件数・品質
Lv.2(Day 31–60):採用・定着の基盤づくり
- 募集要項作成:「1日の流れ」「配慮事項」「評価指標」「休憩スペース」を明記
- オンボーディング:初週スケジュール、伴走者、日々の振り返り10分を固定
- アクセシビリティ設定:PC・スマホの表示/入力補助を標準プロファイル化
- ミニKPI設計:週の目標値(例:チェックリスト完了率、ミスゼロ日)
- 助成金・制度確認:要件合致の可否と提出タイムラインを策定
Lv.3(Day 61–90):評価・改善でスケールする
- 定着レビュー:本人・上長・支援者で「続ける/やめる/変える」を決定
- 業務拡張:隣接タスクを+10〜20%で追加、品質指標を先に定義
- 共有会:現場の成功事例を10分プレゼン、社内横展開
- 来期計画:雇用人数・教育計画・予算(納付金/調整金含む)を策定
- 広報:採用サイト・SNSに「働き方の工夫」を事実ベースで掲載
90日アクション表(保存版)
| 週 | 主要タスク | 成果物 | 関与者 | チェックポイント |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 業務棚卸し | タスクリスト50件 | 現場責任者・人事 | 5〜15分単位で分解できているか |
| 2 | ジョブカービング | 日次パッケージ3枠 | 現場・人事 | 開始/終了/成果物が明確か |
| 3 | 手順書作成 | 写真入り手順10本 | 現場・ジョブコーチ | 誰が見ても同じ作業になるか |
| 4 | 実習設計・募集準備 | 実習要領・募集要項 | 人事・支援機関 | 配慮事項を明記したか |
| 5–6 | 職場実習 | 評価シート | 現場・支援機関 | 処理件数・品質のデータ化 |
| 7 | 雇用判断 | 合意メモ(配慮リスト) | 人事・本人 | 双方の期待が一致しているか |
| 8–9 | オンボーディング | 日々の振り返り記録 | 伴走者・本人 | 週次KPI達成率 |
| 10–12 | 評価・拡張 | 次期計画 | 経営・現場 | 継続/拡張の意思決定 |
費用対効果の考え方(算式テンプレート)
数字は企業が納得するための共通言語です。以下は「どれだけ価値が出たか」を測るためのテンプレート。実データで置換して使いましょう。
| 項目 | 算式例 | メモ |
|---|---|---|
| 生産性向上額 | (削減工数h × 人件費/ h)+(追加売上 × 粗利率) | 削減工数は現場ヒアリング+作業ログで算出 |
| 初期投資 | 手順書作成時間+設備改修費+教育工数 | 教育工数は初月に厚めに、翌月以降逓減 |
| 運用コスト | 人件費+伴走工数+必要に応じた配慮コスト | 配慮は全社の働きやすさ改善に波及 |
| ネット効果 | 生産性向上額 −(初期投資+運用コスト) | 年度単位で評価、助成金・調整金を反映 |
助成金・支援メニュー(まずはチェック)
地域や要件で異なるため、最新の公的情報をご確認ください。
| 区分 | 例 | 対象となりやすい取組 | 確認先 |
|---|---|---|---|
| 雇用支援 | 特定求職者雇用開発助成金 等 | 継続雇用・初期の受入れ整備 | ハローワーク・厚労省 |
| 定着支援 | 障害者雇用安定助成金(職場定着・雇用管理) | ジョブコーチ活用、職場改善 | 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) |
| 設備・環境 | 職場改善・設備導入関連の各種支援 | バリアフリー化、ICT/アクセシビリティ設定 | 自治体・商工会 |
「うちは特別なことはしていない」と語る会社ほど、仕組みはよくできています。特別ではなく、標準を上げる。それが結局、採用力と定着率を上げ、事業の強さに直結します。
雇用率の先へ——価値が生まれ続ける組織をつくる
雇用率達成はゴールではありません。人と仕事が噛み合い、価値が生まれ続ける状態こそが目的です。いま、全国で多くの中小企業が「1人目」から始め、小さな成功を積み上げています。あなたの会社も、その列に加わりましょう。未来は待っていません。設計し、動き、改善する——それが最短距離です。
今日、5分だけ時間をつくって、現場の「すき間タスク」を3つ書き出してください。それが、明日への最初の歯車になります。背中は、私が押します。一緒に、いきましょう。
「あなたの小さな一歩が、誰かの働く未来を大きく変えます。」
参考・出典:対象ニュース・関連資料
(文・白石 亜美)
NEWS EVERYDAY for CEOs 中小企業のためのニュース深掘りメディア(URL:https://news-everyday.net/)















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