AI時代で似通う文章|中小企業がエントリーシートに頼らず採用力を取り戻す具体策を解説

解説・執筆:白石 亜美

【目次】

  • AI時代にエントリーシートは評価軸にならなくなった理由
  • なぜES評価は機能しなくなったのか——AI時代の4つの壁
  • 評価をスキルに戻した中小企業の実例——ESを手放した採用現場から
  • よくある疑問に答える——AI時代のESと採用Q&A
  • エントリーシート卒業へ——今日から始める採用設計の実践ステップ
  • まとめ|エントリーシート卒業は「人を見る」採用への回帰

AI時代にエントリーシートは評価軸にならなくなった理由

「時間をかけて書いたのに、結局みんな同じに見える」——エントリーシート(ES)をめぐって、求職者も採用担当者も同じ疲労感を抱えています。NHKの報道によれば、就職活動の現場ではESを廃止・縮小する動きが広がっており、その背景には、AIライティングの普及で応募書類の記述が似通い、文章の巧拙では差がつかなくなった現実があります。今や“うまい文章”は努力の結果ではなく、ツールで簡単に再現できるものになってしまいました。

その結果、書類選考の精度は低下し、「この人は本当に仕事ができるのか」「現場で再現できるスキルを持っているのか」が見えにくくなっています。では、何で差がつくのでしょうか。その答えは明快です。実務に直結するスキル・思考プロセス・再現性のある成果こそが評価の本質です。文章の巧拙に依存した評価から、職務に直結する行動証拠を重視する評価へと切り替えることが必要です。

大企業が順応しつつある今、中小企業は小回りを活かして先に試すことが可能です。「みんながやっているから安心」ではなく、小さく速く試して学ぶ姿勢を持つことで、採用力は着実に強化されます。ルールが変わったなら、採用のやり方も変えていい——むしろ、変えた企業から成果を出せる時代です。柔軟に仕組みを見直せる中小企業こそ、AI時代の採用で一歩先に進むチャンスを手にしているのです。

「文章を競う採用から、仕事の再現性を競う採用へ」

なぜES評価は機能しなくなったのか——AI時代の4つの壁

エントリーシート(ES)は、新卒・既卒の採用で用いられる自由記述式の応募書類です。目的は「人物理解」と「志望理由の確認」でした。しかし、AI時代においては、以下の構造的な限界が顕在化しています。

  • 文章力の外部委託が容易になり、同質化・過剰修辞が増える
  • 実務適性との相関が低い(文章の巧拙≠仕事の成果)
  • 人事側の負担が重く、評価の再現性が低い
  • 応募者にとっても学習コストが高く、心理的負担が大きい

一方で、ESが完全に不要かというと、会社理解・言語化能力の確認には一定の価値があります。大切なのは「ES一本足打法」をやめ、役割適合を見るデータポイントを分散させること。 文章→行動証拠→小さな実務という設計に変えれば、AI時代でも評価の質は上げられます。

データで見る「個人の悩み・企業の壁」

領域現状の悩み何が起きているか乗り越え方(示唆)
応募者ESの差別化が難しい、時間が奪われるAIで均質化、過剰な言い換えが横行成果物・ポートフォリオ・課題提出で勝負
採用担当大量応募で読み切れない、判断が揺れる文章評価の再現性が低い、公平性の懸念構造化面接とスコアリング、少量高密度へ
経営層人が取れない、ミスマッチが高コスト採用要件が曖昧、魅力発信が弱いジョブ定義の明確化とEVP(価値提案)の言語化
中小企業大手に負ける、採用広報のリソース不足スピードと体験設計で勝てるのに未活用短期課題・早期意思決定・リファラル活性化

「“大漁”より“精選”。採用は量より密度です。」

参考枠組み:国内でも人的資本の可視化が求められ(例:人的資本可視化のガイドライン)、海外ではスキル重視(Skill-based Hiring)への移行が主流です。日本の現場でも、構造化面接やワークサンプルテストに舵を切る企業が着実に増えています。


評価をスキルに戻した中小企業の実例——ESを手放した採用現場から

ここからは、実際に動いた中小企業のケースを紹介します。規模や業種は異なっても、共通するのは「評価の中心をスキルに戻す」という発想。特別なシステムがなくても、工夫次第で再現できます。

事例1:製造×ITの中小メーカー—ES廃止+15分課題で歩留まり改善

群馬の部品メーカーA社は、ESを廃止し、応募時に「簡易フローチャート作成(15分)」のワークサンプルを導入。応募数は微減しつつも、一次通過率が上がり、面接での「話が早い」状態を実現。意思決定のリードタイムは平均2週間短縮。AI利用は可だが、「AI使用箇所の申告」を義務づけ、思考プロセスを面接で確認しています。

事例2:地域密着の小売B社—“1日インターン”でミスマッチを先つぶし

B社は、学歴・年齢不問で「1日ジョブトライアル」を実施。実際の店舗での顧客提案や棚づくりを体験してもらい、終盤に振り返りシートを記入。文章力ではなく、観察力と改善提案に着目。ESを廃止することで、応募のハードルが下がり、地域転職者の流入が増えました。

事例3:SaaSスタートアップC社—「ChatGPT OK」を明示して応募増

C社は募集要項に「AI活用は歓迎。ただし出力の検証・出典確認のプロセスを説明」と明記。候補者はプロンプトと検証フローを提出します。結果、文章の均質化は起きても、プロセスの質で差が出るため、面接の深さが増しました。「AI活用をオープンにする会社」への信頼が応募の追い風になったと担当者は語ります。

「AIを“ズル”にしない条件は、申告と検証です。」

これらの事例が示すのは、評価の形式を変えるだけで、採用の歩留まりが変わるという事実。特別な投資は不要です。採用のボトルネックは「人が来ない」ではなく、「評価の設計が仕事に合っていない」ことにあります。


よくある疑問に答える——AI時代のESと採用Q&A

Q. ESを廃止しても、応募者のことを十分に理解できますか?

A. ESは「人物理解・会社理解の補助」として位置付け、短時間の課題や面接で行動や思考を確認する設計に切り替えます。応募者が仕事の一部を体験・説明できる仕組みを整えることで、書類だけでは見えなかった能力を正確に把握できます。

Q. ESを減らす・廃止すると、評価の差はどうつけるべきですか?

A. 書類ではなく、実務に近い成果やプロセスで差をつけます。例:簡易課題、ポートフォリオ、ケース面接での構造化された説明。文章の巧拙ではなく、「行動で示す力」を見られる設計に切り替えましょう。

Q. AI時代に中小企業が採用で差別化するにはどうすればいいですか?

A. 評価の透明性とプロセスの可視化がカギです。AI使用ルールや課題の目的を明確に示し、面接では思考プロセスや改善の取り組みを必ず確認します。応募者が「どう働くか」を短時間で見せられる仕組みを整えることで、規模の小さな企業でも大企業と差別化できます。

Q. 面接や課題の運用でブレが出る場合、どう統一すればいいですか?

A. 評価軸・質問・配点・合否ラインを事前に統一します。面接官間での判断基準のブレをなくすことで、ESに頼らなくても一貫した評価が可能になります。特に中小企業では、構造化された仕組みが採用の質を左右します。

エントリーシート卒業へ——今日から始める採用設計の実践ステップ

エントリーシートをやめること自体がゴールではありません。目指すべきは、「入社後、この人は仕事を再現できるか」を見極められる採用に切り替えることです。そのために必要なのは、評価の順番を入れ替えること。文章を先に見るのではなく、仕事に近い行動を先に見る設計へ移行します。

①最初のステップは、ジョブの言語化です。
「半年後に任せたい成果」「判断を求める場面」「やらなくてよい仕事」を、短く具体的に書き出します。ここが曖昧なままでは、ESを減らしても評価はぶれます。人物像よりも、業務の輪郭を優先してください。

②次に、小さな実務課題を用意します。
15分程度で終わる課題で十分です。正解を競わせるのではなく、考え方・優先順位・説明の筋道を確認します。AI利用は原則可にし、「どこに使い、どう検証したか」を説明してもらうことで、思考プロセスが可視化されます。

③三つ目は、構造化された面接です。
質問・評価項目・合否ラインを事前に揃え、「なぜそう考えたのか」を必ず深掘りします。話し上手さではなく、再現性のある判断ができるかを評価します。ESは参考資料として残しても構いませんが、合否を左右する主役からは外します。

以下は、実践できているかを確認するためのチェックリストです。
すべて埋める必要はありません。チェックが付いたところから、採用は確実に変わり始めます。

実践チェックリスト(ES卒業度チェック)

□ 半年後の成果・任せる仕事が言語化されている
□ ES以外に、仕事に近い評価材料(課題・成果物)がある
□ 課題は短時間・思考重視の設計になっている
□ AI利用ルール(可否・申告・検証)が明確になっている
□ 面接の質問・配点・合否基準が統一されている
□ 文章のうまさで合否を決めていない
□ 入社後の立ち上がりやミスマッチを振り返れている

このチェックリストで重要なのは、「人が来ない」原因を市場や候補者に求めないことです。多くの場合、ボトルネックは評価の設計にあります。評価の形式を変えるだけで、応募の質、面接の密度、意思決定の速さは大きく改善します。

エントリーシート卒業とは、採用のハードルを下げることではありません。
仕事に合った人を、仕事に近い形で見極めるための進化です。
小さく試し、早く学び、合う形に調整する——その柔軟さこそが、AI時代に中小企業が採用で強くなる最大の武器なのです。


まとめ|エントリーシート卒業は「人を見る」採用への回帰

AIの普及によって、エントリーシートは「努力の差」を測る道具ではなくなりました。文章は誰でも整えられ、志望動機は再現できる。結果として、書類選考は候補者の実務力や再現性を見えにくくしています。

本当に見るべきなのは、うまく書けるかではなく、仕事に近い行動をどう考え、どう説明し、どう改善できるかです。ESを廃止・縮小する動きが広がっているのは、採用のハードルを下げたいからではありません。評価を、より仕事に近い場所へ戻したいという必然の流れです。

この記事で紹介した事例が示すように、特別な投資や大規模な制度改革は必要ありません。
ジョブを言語化し、小さな課題を用意し、面接の軸を揃える。評価の順番を少し変えるだけで、採用の歩留まりや意思決定の質は大きく変わります。

エントリーシート卒業とは、「書類をやめる」ことではなく、採用を仕事基準に設計し直すことです。小さく試し、合わなければ直す。その柔軟さを持てる中小企業こそ、AI時代の採用で先に進めます。

文章ではなく、仕事を見る。
その一歩が、これからの採用を強く、健全なものにしていきます。

出典:対象ニュース・関連資料

(文・白石 亜美)


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