
縮小の美学——三省堂書店「神田神保町本店」が映す”小売業の持続可能な経営”
未来へのまなざし
希望という名の習慣。希望は一度の決断ではなく、習慣に近い。毎朝、シャッターを上げるように。売り場の埃を払うように。選び直し続ける小さな動作の総体だ。三省堂書店の新しい本店が掲げる「歩けば、世界がひろがる」は、歩くという習慣に希望を託している。私もそうだ。歩くたび、同じ道が少し違って見える。その差異のなかに、未来の余白が潜んでいる。
“変わらないもの”の中にある力。紙の手触り、背表紙の連なり、ページをめくる音。変わらないものは、変わるものを支える土台だ。縮小がそれらの価値を際立たせるなら、変化は脅威ではない。むしろ、変わらないものを鮮明にするレンズになる。ここで大切なのは、懐古ではなく調律だ。古い旋律に新しい楽器が加わるとき、音は豊かになる。店の奥で聞こえるページの擦過音は、街の鼓動と重なり、いつか誰かの記憶の深いところで灯り続ける。
「歩くことは、考えることだ」
ヴァルター・ベンヤミン

総括
縮小は敗北ではなく、編集である。三省堂書店「神田神保町本店」が選んだのは、面積を削り、意味を濃くし、収益の骨組みを多層化する道だ。損失回避の心に寄り添いつつ、その痛みを設計に埋め込む工夫は、すべての中小小売に開かれている。家の耐震壁のように、目に見えない補強が暮らしを支える。雨が上がり、光が差し、声が集まり、記憶がそっと座る場が、これからも街に必要だ。歩けば世界がひろがるのだとしたら、その一歩目は、縮む勇気から始まるのかもしれない。
付録・参考・出典
- 出典:[三省堂書店、「神田神保町本店」26年3月再開業 売り場面積4割減/日本経済新聞](URL: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC014BX0R01C25A2000000/)
- 追加参考:[プレスリリース/株式会社三省堂書店] (URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000044.000131210.htmlPR)
- 理論参考:ダニエル・カーネマン/エイモス・トヴェルスキー「プロスペクト理論」;ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』
- 引用出典:ジェローム・ブルーナー『Actual Minds, Possible Worlds』;ガストン・バシュラール『空間の詩学』;ヴァルター・ベンヤミン(各引用は要約含む、いずれも20語以内)
その他中小企業向け記事はこちら(URL:https://news-everyday.net/category/politics-economy/economy/)
——失う痛みを否定せずに抱きとめながら、それでも灯りを落とさない店と人の物語を、これからも丁寧に書き留めていきたい。(文・長井 理沙)















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