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約40年ぶりの労働法改正で何が変わる?中小企業が今すぐ確認すべき働き方・残業・賃金の実務対応ガイド

解説・執筆:白石 亜美(実践キャリア解説者 / 元ビジネス誌編集長)

  • トレンド(事実):労働基準法の約40年ぶりの抜本見直しが俎上に載り、働き方の前提が揺れている
  • ギャップ(課題):中小企業を中心に「何が変わるか」「いつ何をするか」が曖昧なまま手当てが遅れている
  • アクション(白石の提言):まず「時間の見える化」と36協定の棚卸し、賃金テーブルの仮設計から始めよう

「給料は増えるの?」「残業はなくなるの?」——不安と期待が交錯するいま、確実に言えるのは「準備の早い人・会社から得をする」ということ。制度はあなたの味方にも、コストにもなります。この記事では、改正の要点を整理しつつ、明日から取れる最短の一手を段階別にお渡しします。

※本記事で扱う内容は現時点で公表されている検討論点・報道ベースの情報に基づいており、最終的な法改正内容・施行時期は今後の国会審議等で確定します。

【目次】

  • 約40年ぶりの労働法大改正──中小企業の「働き方の前提」が変わる
  • 見直し議論の全体像と中小企業への影響
  • 現状の課題と改正で顕在化しやすいポイント
  • 制度は“使い方”で差が出る——中小企業の実践事例
  • よくある疑問に答える——改正をめぐるQ&A
  • 管理者・経営者向け|改正に備えて今すぐ行うチェックリスト
  • まとめ|改正を「負担」で終わらせないために

約40年ぶりの労働法大改正──中小企業の「働き方の前提」が変わる

今回の改正議論は、単なる条文の言い換えではありません。40年で変わったのは経済構造とテクノロジー、そして人生100年時代の働き方。政府・与党の会議体や有識者の検討を経て、労働時間の捉え方、賃金の決め方、記録の在り方などの“根っこ”が見直されようとしています。ニュースでは「給料は増えるの?」「残業はなくなるの?」といった問いが注目を集めますが、法改正は魔法ではありません。自動的に収入が上がるのではなく、「見える化→適正化→生産性向上」という順番で効果が現れるのです。

特に中小企業にとっては、対応の遅れが「罰則・割増コスト・採用難」のトリプルパンチにつながります。逆に、先手を打つ企業は、法令順守の“守り”で信頼を獲得し、時間あたり生産性の“攻め”で賃上げ原資を生み出せます。個人にとっても同様で、仕組みを理解し、自分の時間と価値を言語化できる人から、評価の取りこぼしが減っていくのです。

この記事は、Yahoo!ニュース(弁護士の解説記事)で伝えられた「約40年ぶりの大改正」論点を一次情報として踏まえつつ、実務に効く準備のやり方を示します。

「変化は“準備した人”にだけ公平です。」


見直し議論の全体像と中小企業への影響

現時点で公表されている議論や報道ベースの論点を、確定事項と混同しないよう留意しつつ、実務に影響が大きい項目を整理します(最終決定の内容・時期は今後の国会審議等で確定)

領域現行の骨子見直しの主な論点(報道・有識者議論)想定インパクト(中小企業)
労働時間の管理原則「労働時間=使用者の指揮命令下の時間」。客観的把握(タイムカード等)を指導デジタル前提の客観的把握の厳格化、在宅・モバイルの境界明確化記録の電子化・システム導入、在宅時のルール整備に投資が必要
時間外労働と割増月45時間・年360時間(特別条項あり年720時間等)。深夜・休日割増率規定上限規制の実効性強化、割増計算の厳格化、代替休暇の運用見直し残業コストの見通しがシビアに。工程見直しと人員計画が必須
働き方の制度類型フレックス、事業場外みなし、裁量労働、高度プロフェッショナル等適用範囲の厳格化・要件の明確化、濫用防止の運用強化みなし・裁量の誤用が露呈しやすく。職務記述書と成果基準の整備が要
賃金・評価時間給・月給を基本。同一労働同一賃金の指針あり成果連動の設計を支える透明性要件、賃金台帳の電子化・保存賃金テーブルの可視化と説明責任が課題。従業員の納得設計が鍵
健康確保面接指導、インターバル制度導入努力義務等勤務間インターバルの実効性向上、長時間労働抑制の監督強化シフト設計見直し。夜勤・連続勤務の基準に再対応が必要

重要なのは、「自動的に給料が上がる」わけではないこと。もし割増基準が厳密化すれば、未払いが正される分だけコストは増える一方、生産性の改善が伴わなければ総額人件費の重さに耐えられません。だからこそ、先に「時間を減らす仕組み」を作り、浮いた原資を賃上げに回す順番が必要なのです。

現状の課題と改正で顕在化しやすいポイント

▼年次有給休暇の取得

現状:取得率は約60%前後で推移し、「年5日取得義務」は一定程度定着している。
壁・悩み:繁忙期に取得が偏りやすく、小規模事業者ほど代替要員の確保が難しい。
改正で増えるリスク:取得計画が未整備な場合、違反・罰則や労務管理への信頼低下につながる。
対応の肝:年次取得計画の策定と付与管理、人員計画を含めた業務量の平準化。

▼時間外労働の実態

現状:36協定の上限内に収まっていても、特別条項に依存する余地が残っている。
壁・悩み:「みなし労働」への依存により、実際の労働時間が不透明になりがち。
改正で増えるリスク:未払い残業の洗い出しや、是正命令・遡及支払いによるコスト増。
対応の肝:労働時間の客観的把握と、業務の分解・自動化による残業削減。

▼テレワークの時間管理

現状:テレワークは広がっているが、記録方法や「中抜け」の定義が曖昧。
壁・悩み:在宅・モバイル環境では「どこからが労働時間か」の線引きが難しい。
改正で増えるリスク:長時間労働や隠れ残業の顕在化、労使トラブル・紛争の増加。
対応の肝:始業・終業・中断ルールの明文化、ステータス管理と成果基準の併用。

▼中小企業の人事体制

現状:専任の人事担当者が不在で、就業規則が旧態依然のままの企業が多い。
壁・悩み:制度解釈の誤りが社内で構造化・固定化しやすい。
改正で増えるリスク:監督指導や是正勧告を受け、割増賃金の一括支払いによって資金繰りが圧迫される。
対応の肝:外部社労士・専門家との早期連携と、就業規則・運用の標準化。

「“時間の迷子”のままでは、賃金は設計できない。」


制度は“使い方”で差が出る——中小企業の実践事例

制度は「使い方」で成果が変わります。ここでは中小企業の実在パターンをモデル化し、何をどう変えたかを具体に示します。

事例1:製造A社(従業員80名)——紙タイムカードからの卒業で残業コスト▲18%

月次残業が常態化。割増計算はエクセル、現場と管理の乖離で「未払い疑義」がくすぶっていました。A社はまず打刻の電子化と勤務ステータスの明確化(業務/待機/休憩/移動)に着手。週次で「ムダ時間トップ10」を共有し、段取り替えの標準時間を見直しました。2か月で“隠れ残業”が可視化すると、残業は横断的に▲12%、半年で▲18%に。浮いた原資の半分を技能手当に回し、離職率も低下。「コストの半分は“不明確さ”から生まれる」ことを現場が実感した瞬間でした。

事例2:IT受託B社(従業員45名)——裁量労働の“誤用”を正し、成果基準へ転換

名ばかり裁量で長時間労働が慢性化。弁護士の指導のもと、適用職務の要件を棚卸し、対象外の職種はフレックスへ移行。全員に職務記述書(JD)を配布し、アウトプットの定義とレビュー頻度を月2回に。結果、タスクの切り出しと見積り精度が上がり、時間外の平均が▲22%、顧客見積の精度も向上し、粗利率が3ポイント改善しました。「制度は盾ではなく“働き方の設計図”」だと、社内の理解が進みました。

事例3:医療系C社(従業員120名)——勤務間インターバルで事故ゼロ、採用強化へ

夜勤後の早番シフトが続くことでミスが増加。勤務間インターバルの社内基準を11時間に設定し、夜勤明けのタスク移管をルール化。加えてRPAで夜間の定例入力を自動化しました。ヒヤリ・ハットが四半期で半減、半年後には事故ゼロを達成。求人広告では「守るべき休息」を前面に掲げ、応募数が1.7倍に。「休ませることは、顧客価値を守ること」という合言葉が定着しました。

※個々の企業の事例であり、必ずしも全ての企業で同様の効果が出るとは限りません。

「制度の再設計=時間と信頼の再配分。」


よくある疑問に答える——改正をめぐるQ&A

Q. 改正で「給料は増える」「残業はなくなる」は本当?

A. 自動的に賃金が上がるわけではありません。未払い残業の是正や割増基準の厳格化が進めば、適正支払いにより一部の方の手取りが増えるケースはあります。ただし企業は総額人件費のコントロールを求められます。結果的に残業そのものを減らす動き(工程改善・採用・価格交渉)が強まるため、「残業代で稼ぐ」モデルはリスクです。個人は「時間あたりの価値」を高め、成果基準で報酬を得る準備を進めましょう。

Q. 管理職(管理監督者)なら時間外は関係ない?

A. いわゆる管理監督者は適用除外の範囲が厳格です。名ばかり管理職の適用誤りは是正リスクが高い領域。実態として人事権や経営に関与し、労働時間の裁量を持つかが問われます。役職名だけで判断せず、職務・権限・給与水準の三点セットで要件確認を。曖昧な場合はフレックスタイム制や裁量労働制(要件厳守)への移行も検討しましょう。(職務・裁量・経営への関与の実態で判断が必要です。)

Q. テレワークで「中抜け」や「つけっぱなし」の扱いは?

A. 指揮命令下にない時間は労働時間に該当しませんが、運用の曖昧さがトラブルの原因です。ステータス管理(業務中/休憩/私用/離席)をツールに実装し、「中抜け=業務の中断」を打刻・申請で明確に。会議がない時間の業務指示の有無も定義しましょう。業務終了の合図(終業打刻・チャット定型文)も有効です。

Q. 36協定はどう変えるべき?

A. 特別条項の乱発を前提にしない設計に改めましょう。期中の繁閑を予測し、案件ごとに所要工数を見積り、「平準化×外注×自動化」の打ち手を先に組み込む。上限に近づいた時のエスカレーションと、代替休暇の取得計画も必須です。協定のひな型ではなく、現場の実データで交渉できる状態を目指します。

Q. 個人として“損しない”ための交渉術は?

A. 「感情」ではなく「事実と代替案」で。過去3か月の実労働時間(根拠付き)と、同等成果をより短時間で達成する提案(自動化・分担・優先度調整)をセットに。「この改善で月10時間削減=残業コスト▲X円、私はYの新機能に時間投資」まで言語化できると強い。賃金改定は評価タイミングの2~3か月前に根拠を出すのが鉄則です。

※改正案の現時点の想定論点に基づいた対応例となります。
 テレワークの時間管理と裁量労働制の適用は別の概念であり、双方の条件・要件を混同しないことが重要です。


管理者・経営者向け|改正に備えて今すぐ行うチェックリスト

下記は重要度の高い順ではありませんが、初動として「見える化」と「36協定の棚卸し」は優先度が高い対応になります。

【1】労働時間は「客観的」に把握できているか

□ タイムカード・打刻ツールで始業・終業が記録されている
□ 在宅・外出・移動時の労働時間も把握できる設計になっている
□ 「業務・休憩・待機・私用」の区別が明確に定義されている

→ 改正議論では、デジタル前提での客観的把握が一層重視される見通しです。
 実態把握が曖昧なままだと、未払い残業の洗い出しリスクが高まります。


【2】36協定・特別条項を「使わない前提」で設計しているか

□ 特別条項を毎年ほぼ同条件で更新していない
□ 繁忙期を見越した人員・外注・工程調整を事前に検討している
□ 上限接近時のエスカレーションルールが決まっている

→ 上限規制は「守ればOK」ではなく、実効性が問われる段階に入っています。
 協定は“最後の保険”であり、常用前提は高リスクです。


【3】みなし・裁量労働・管理監督者の適用は妥当か

□ 対象者の職務内容・権限・裁量を説明できる
□ 役職名だけで管理監督者扱いしていない
□ 職務記述書(JD)や成果基準が整備されている

→ 名ばかり管理職・裁量労働の誤用は、是正指導の優先領域です。
 制度は「肩書」ではなく「実態」で判断されます。


【4】テレワークの時間ルールが言語化されているか

□ 中抜け・離席・私用の扱いが明文化されている
□ ステータス管理(業務中/休憩中など)が運用されている
□ 終業の合図(打刻・定型チャット等)が決まっている

→ テレワークは自由度が高い分、ルール不在が紛争の火種になります。
 「暗黙の了解」は通用しなくなる前提で整備が必要です。


【5】年次有給休暇は「計画的」に取得されているか

□ 5日取得義務を個人任せにしていない
□ 年間の取得計画があり、繁忙期に偏らない設計になっている
□ 代替要員・業務引き継ぎの仕組みがある

→ 取得率そのものより、「管理しているか」が問われます。
 計画なき取得は、違反・信頼低下の原因になります。


【6】賃金・評価の説明責任を果たせるか

□ 賃金テーブルや評価基準を説明できる
□ 時間と成果の関係が整理されている
□ 賃金台帳・労働時間データを電子で保存している

→ 改正は「払うか・払わないか」ではなく
 「なぜその賃金なのか」を説明できるかの時代です。


【7】社内だけで抱え込まず、外部の目を入れているか

□ 社労士・弁護士など専門家と定期的に確認している
□ 就業規則を数年以上見直していないまま放置していない
□ 制度変更時の相談ルートが決まっている

→ 中小企業ほど、解釈ミスが構造化しやすい。
 早期の外部チェックは、将来の一括支払いリスクを防ぎます。


■ チェックの結論

すべてを一度に完璧にする必要はありません。
重要なのは「把握 → 見える化 → 修正」の順で着手することです。
制度対応はコストではなく、生産性と信頼を高める投資です。


まとめ|改正を「負担」で終わらせないために

今回の労働法制見直しは、「働きやすくなるかどうか」を自動で約束するものではありません。問われているのは、制度そのものではなく、その“使い方”です。労働時間を正確に把握し、ルールを明文化し、業務と評価を再設計する——この積み重ねがあって初めて、賃金の適正化や生産性向上という成果につながります。

中小企業にとって重要なのは、すべてを一気に変えようとしないことです。まずは現状を可視化し、リスクが大きい領域から順に整える。それだけでも、未払い残業や是正指導といった「守りのコスト」は確実に下げられます。さらに、時間あたりの付加価値を高める設計に踏み出せば、賃上げの原資や採用競争力という「攻めの果実」も見えてきます。

制度改正は、企業と個人の関係をリセットするタイミングでもあります。企業は「時間を管理する側」から「価値を設計する側」へ。個人は「長く働く人」から「成果を言語化できる人」へ。この転換に早く着手した組織と人材から、次の時代の標準になっていくはずです。


参考・出典
– 出典:対象ニュース・関連資料
– 厚生労働省「働き方改革関連法」「就労条件総合調査」「労働時間の客観的把握に関するガイドライン」 等公表資料

(文・白石 亜美)

NEWS EVERYDAY for CEOs 中小企業のためのニュース深掘りメディア (URL:https://news-everyday.net/

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