ニセ社長詐欺が急増――中小企業が今すぐできる会社を守る5つの仕組み

データが示す「産業の地殻変動」

国内では、2025年12月から約1カ月で少なくとも39件の“ニセ社長詐欺”被害が確認され、被害総額は約5.4億円に達した(警察庁発表、報道要約)。単月でこの規模は、検知されていない事案が積み上がれば中小企業のキャッシュフローを瞬時に破壊し得ることを示す。グローバルでもBECは長年、サイバー犯罪のなかで最大級の金銭被害を生むカテゴリであり、銀行振込、偽請求書、サプライヤー改ざん、役員なりすましなどが複合化している。

観点従来のフィッシング現代のBEC/ニセ社長詐欺
攻撃媒体メール中心(偽ログインページ)メール+LINE+SMS+社内チャット+電話
偽装要素ロゴ・偽サイトの粗雑な模造差出人表示・文体・会話履歴・時間帯の最適化
目的資格情報の詐取直接の資金移動(送金・口座変更)
検知難易度中(誤字・ドメイン相違で発見可能)高(自然言語・多チャネルで“正常”に見える)
有効防御URL/ドメイン検査・二段階認証多段階承認・コールバック規約・送金冷却・DMARC
攻撃手口の進化企業側の既定動作(推奨)
2016-2018役員なりすましメール、偽請求書の台頭二段階認証、支払い申請書の整備
2019-2021クラウドメール侵害、SaaS連携の悪用SSO、ログ監査、支払閾値の設定
2022-2024生成AIでの文体模倣、即時応答多段階承認、DMARC p=reject、外部タグ
2025-2026マルチチャネルBEC、LINEグループ乗っ取りコールバック規約、口座ホワイトリスト・冷却期間

「攻撃は多チャネル、守りは単一手段では敗れる」

現場・実装の視点:その他におけるDXのリアル

「社長からのメールでも送金してはいけない」最大の理由は、情報チャネルと意思決定チャネルを混同するからである。メールやLINEは“情報の運搬路”であって、“命令の正当性”を担保しない。つまり、社長の言葉であっても送金は制度に従う限りでしか実行されない仕組みにする必要がある。多くの中小企業では、案件のスピードを重視するあまり、金額閾値や二人承認を口頭で緩める文化が出来上がる。攻撃者はそこを突く。

ここでは、会社を守る5つの仕組みを提示し、導入の順序・効果・コスト感を整理する。重要なのは「人の注意」ではなく「既定動作」である。最初に設けるべきは“送金を止める摩擦”であり、次に“疑わしい命令を無効化する規約”である。最後に、やめられないツール(LINE等)を安全に使うための“柵”を設ける。

会社を守る5つの仕組み(実装優先順位つき)

優先仕組み要点想定コスト導入インパクト
1金額閾値×多段階承認(2〜3人)送金を一人では完結させない。閾値に応じてCFO/経理/事業責任者の承認を段階化。低〜中(ワークフローSaaS/既存ERP設定)即効性大。単発の大口被害をほぼ遮断。
2コールバック規約(口頭の合言葉+電話帳固定)外部チャネル指示は「内線/既知番号への折り返し」と合言葉で確定。番号は台帳固定。低(規程化+短時間訓練)多チャネルBECの接続断ち切り。運用負荷は軽微。
3口座ホワイトリスト+冷却期間(T+1〜2)新規・変更口座へは即日不可。ホワイトリスト登録と1〜2営業日の待機を必須化。中(銀行/ERP設定、ベンダー運用)偽請求・急ぎ依頼への強靭性向上。
4メールドメイン認証の強制(SPF/DKIM/DMARC p=reject)+外部警告自社名乗りのなりすましを遮断。「外部」タグや社長名の警告表示を徹底。中(DNS設定、ゲートウェイ調整)表層の詐称撲滅。誤検知チューニングが要点。
5安全なチャット運用(SSO/監査ログ/DLP)LINE等の私用チャネル禁止ではなく、業務チャットを正規化・権限管理。外部連携はゲート化。中〜高(SaaS契約・権限設計)「LINEグループ乗っ取り」型の土壌を枯らす。

実装の肝は、スピードと安全のトレードオフを制度で最適化することである。承認者が不在でも回るよう、代行者(デピュティ)をあらかじめ設定し、金額閾値の段差を3段階程度に分けるとよい。チャットは即時性が武器であるが、外部とのグループ作成に「管理者同席」や「ゲスト参加は会社ドメインでのみ許可」といったゲートを設けるだけで、詐欺の初手をつぶせる。

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