じゃがいも高騰「平年比1.5倍」が示す──中小企業の原材料高に負けない「仕入れ×価格転嫁」5つの打ち手と制度設計

現状分析:データと構造で読む

「供給ショック」とは?経済的定義

供給ショックとは、供給曲線の左方シフト(供給量の減少)により、均衡価格が上昇し、均衡数量が減少する現象である。一般的に「価格上昇=コスト増」と理解されがちだが、加工・外食の現場では、(1)生芋価格の上昇、(2)サイズ小型化による歩留まり低下(規格外増)、(3)加工・調理時間の増加による労務費の上昇、(4)配送単価の上昇(単位量あたりの積載効率低下)、(5)メニュー品質のばらつき増大による売上機会損失、が重層的に発生する。これらは実効原価(effective cost)を押し上げ、企業の粗利とキャッシュフローを直撃する。

さらに農産物は、産地集中度が高いほど気象ショックへの脆弱性が高まる。じゃがいもは北海道が主産地であり、猛暑と少雨という同時ショックがサイズ分布と収量に顕著な影響を与えた。供給源の地理的分散が不足するなかで、上流(生産)から下流(外食)までの契約が固定価格・固定数量のままであることが、ショック吸収機能を弱め、後方転嫁(上流→卸)と前方転嫁(外食→消費者)の双方を遅らせる制度的欠陥となっている。

データが示す「不都合な真実」

ニュースの一次情報を基礎に、加工・外食の実効原価へ与える影響を整理する。

指標平年2026年(直近)変化率備考
卸売価格(東京都中央卸売市場)約190円/kg(※推計)286円/kg+約50%報道値。平年比は記事記載の1.5倍から推計。
店頭価格25円/100g36円/100g+44%報道値(税込)。
サイズ分布(小玉比率)基準=100上昇(定量不明)小玉化により歩留まり低下。※推計必要。
加工歩留まり(生芋→チップス)約33%(※業界標準)約30%(※推計)-3pt小片・規格外増で有効歩留まり低下。
実効原価(生芋/kgあたり可販量基準)100約160〜170+60〜70%価格×歩留まりの複合効果。※試算。
表1:価格と歩留まりの複合効果(一次情報に基づく試算)。不明部分は※推計値。

ここで重要なのは、「名目価格1.5倍」よりも「実効原価1.6〜1.7倍」になり得る点である。歩留まり低下3ポイントは軽微に見えるが、加工食品の粗利は10〜20%台で運営されることが多く、原価の5〜10%増は粗利を数ポイント奪う。飲食店においても同様で、皮むき・カット手間の増加は労務費の見えない上昇として現れる。

「価格は1.5倍、しかし原価は“気付かぬうちに”1.7倍」


現場・市場の視点:飲食業へのインパクト

飲食店の典型的な損益構造では、食材原価率30〜35%、労務費30%前後、家賃・光熱・販促等で残余を構成する。じゃがいもの構成比は店の業態により異なるが、居酒屋・洋食店でメニュー横断的に1〜3%の売上に相当することが多い。主力メニューにフライドポテト、ポテトサラダ、コロッケ等を持つ店では5〜10%に達する場合もある。よって、じゃがいも実効原価が60〜70%上昇すると、全体の原価率は0.6〜4.0ポイント上振れし得る。

業態じゃがいも売上比率実効原価上昇(+65%)の全体原価率への影響粗利率への影響
一般居酒屋2%+1.3pt-1.3pt
カジュアル洋食3%+2.0pt-2.0pt
フライドポテト主力8%+5.2pt-5.2pt
表2:業態別・じゃがいも実効原価上昇が粗利率へ与える影響(概算)。

「小さくて高い」は顧客満足度の低下(価値認識の毀損)を通じて、来店頻度や一人当たり客単価の下押し要因となる。さらに、小芋の皮むき手間は一個当たりの作業時間が増えるため、同一販売数量を維持するには調理工程の再配置が必要となり、人時生産性が低下する。したがって、本件は単なる仕入れの問題ではなく、メニュー設計・オペレーション・契約設計の総合課題である。

「値上げを遅らせるほど、粗利は“見えない穴”から流れ出す」

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