「静かな退職」は“静かなSOS”——賃金は下げられない。仕事を再設計せよ【中小企業のための90日アクション】

解説・執筆:白石 亜美(実践キャリア解説者 / 元ビジネス誌編集長)

  • トレンド(事実):静かな退職が中小企業にも拡大、士気と生産性が鈍化
  • ギャップ(課題):賃金は契約が壁、職務曖昧で成果管理が機能しない
  • アクション(白石の提言):役割定義×1on1を即導入、90日で期待と報酬を整流化

「最低限しかやらない」——その裏側には、声に出せない不安と、報われない設計があるのです。見えない疲労に飲み込まれる前に、今日から現場を変えていきましょう。賃金は“コスト”ではなく“約束”。だからこそ、約束の土台である「仕事の中身」を再設計するのです。

目次


変わりゆくルールの現在地

「静かな退職(Quiet Quitting)」が広がっています。残業はしない、最低限の役割だけ果たす、誰にも迷惑はかけない——表面的には「問題ない人」。しかし組織は少しずつ静脈出血のように力を失います。東洋経済オンラインの報道(出典は末尾参照)でも、企業が賃金を簡単に下げられない日本の労働契約の現実が指摘されました。最低賃金の上昇、物価対応、雇用の安定重視。賃金は短期的な調整弁にはできません。

ならば問うべきは別のところです。なぜ人は静かに距離をとるのか。なぜ仕事の期待が伝わらないのか。なぜ評価の対話が起きないのか。答えは「仕事の設計」と「関係の設計」にあります。つまり、賃金単価ではなく“仕事の中身”を見直すのです。

キラーフレーズ:「静かな退職は、静かなサボりではない。静かなSOSだ。」

中小企業の経営者にお伝えしたいのは、責めるより“設計”で勝つという視点。賃金は約束、期待は設計、成長は対話で実現します。ここから、現状の壁と、打開のための段階的アクションを提示します。


課題と背景

「静かな退職」とは?基礎知識

「静かな退職」は退職ではありません。契約や雇用を維持したまま、就業規則上の最低限の仕事だけを遂行し、それ以上の貢献や改善活動、越境協力を控える状態を指します。燃え尽き、評価不信、心理的安全性の低下、職務曖昧、期待の非対称性などが背景にあります。

概念静かな退職燃え尽きサボタージュ
定義最低限の職務のみ遂行情緒的・身体的消耗意図的な業務妨害
表面の行動規則は守るが越境しない遅延・欠勤・集中力低下規則違反・無断欠勤等
根本原因期待と報酬の非対称/信頼低下過重負荷/裁量欠如悪意/重大な不満
対応策職務設計と対話の再起動休息・再配置・支援懲戒含む管理対応
分類の違いを見誤ると、対策も誤る。

重要なのは、法的に許される“賃金の調整”には限界があるという現実。日本の労働契約は原則として個別合意で賃金が定められ、従業員の不利益変更には合理性と個別同意が必要です。最低賃金は毎年のように上昇しています。つまり、モチベーションや貢献の揺らぎを、短期の賃下げで調整する発想は現実的ではありません。

だからこそ、「職務の明確化」「成果の対話」「学習の設計」という経営の原点に回帰しましょう。

データで見る「個人の悩み・企業の壁」

視点よくある悩み/壁構造要因早期打ち手(例)
個人何を期待されているか不明職務記述なし/属人依存週1の15分1on1+目標テンプレ導入
個人努力と評価が結びつかない評価基準が抽象/面談は年1回四半期ごとに目標・成果の簡易棚卸
企業賃金を下げられない契約/法制/最低賃金上昇役割等級と可変報酬の設計変更
企業採用難で人に言いにくい離職コスト/ノウハウ流出スキル標準化と属人化解消
厚労省統計の最低賃金上昇傾向や人手不足感も背景。賃金ではなく仕事設計で解く。

キラーフレーズ:「賃金は“コスト”ではなく“約束”。約束を守る道具は、設計と対話だ。」

東洋経済オンラインの記事(出典は末尾)も、賃金調整の難しさと、人事評価・職務設計の未整備が静かな退職を長期化させると示唆します。ここから先は、現場で実際に変えた企業の物語を共有します。

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