「7000人滞留」の教訓——新千歳“陸の孤島”の経済分析とBCP最適解

現状と構造:定義と乖離

「陸の孤島」とは? 定義と統計的定義

本稿でいう「陸の孤島」は、空港の入出域に関わる主要地上交通(鉄道・高速バス・幹線道路)の冗長性が失われ、空港の到着・出発旅客を2時間以上、設計上の処理能力を超えて滞留させる状態を指す。統計的には、交通手段の同時停止確率と空港の流入・流出バランスの不均衡度を組み合わせ、機能孤立確率(P_isolation)として表せる。

P_isolation = P(鉄道停止) × P(バス停止) × f(道路通行可否, 除雪能力) × g(航空到着維持率)。このとき、航空到着維持率が高く地上交通の停止が同時に起きるほど滞留は急増する。今回、JR快速エアポートの大規模運休と高速バスの全面運休が重なり、P_isolationが閾値を超えた。

「空港BCP」は多くのケースで滑走路運用や航空保安が中心となる。しかし降雪多発地帯では、「空港—都市連結BCP」が最も脆い。空港単体の運用継続性と、都市交通の冗長性は別物である。定義を誤ると、投資は最も弱い環(地上交通の連結点)を素通りする。

データで見る「乖離」

今回の乖離は「到着維持—排出不能」という構図だ。以下の表は、報道で確認できる事実を基に、旅客フローの詰まり具合を可視化したものである。

日時航空(到着)JR快速エアポート高速バス(札幌方面)空港内の状況
1/25(夜)一部運休・遅延も到着継続140本運休始発から運休到着ロビー〜駅通路で滞留、通行困難
1/26(午前)到着継続除雪継続、ダイヤ乱れ臨時便一部設定も乗れない人多数タクシー待機列100人超、物資需要増
1/26(午後1:30〜)到着継続徐々に運行再開も正常化せず(94本運休)限定的滞留の波が続く

“空は動く、陸は止まる”。この非同期は予見可能である。気象庁の過去データが示すように、豪雪は線形ではなくクラスタリングして発生する傾向がある。したがって、空港の到着制限(受け入れ絞り)と代替輸送の即応立ち上げ(バス代行・タクシープール)の同時発動が鍵となる。

「需要が到着する速さ」より「排出できる速さ」が小さいとき、空港は滞留装置に変わる。

現場・社会への影響:出社不能・物流遅延の損益分岐点

経済への影響を測るには、「確率 × 損失」で期待損失(Expected Loss, EL)を設計するのが定石である。中小企業のBCPに落とすなら、(1)従業員の出社不能率、(2)物流の遅延率、(3)顧客対応の中断時間、の3指標で足し上げるのが実務的だ。

指標定義算式(例)備考
出社不能率予定勤務者のうち通勤不可割合p_commute = 停止路線比 × 雪害係数雪害係数は徒歩代替・在宅可否で調整
物流遅延率当日出荷の遅延割合p_logi = 除雪遅延 × 幹線規制影響空港便・陸送の依存度で重み付け
中断時間顧客接点(コール/来店)の停止時間t_downtime = 通信/電力/人員の最長停止拠点間バックアップの有無で差

さらに、企業の損益分岐点(BEP)での耐性を評価する。固定費F、限界利益率m、売上Sとしたとき、豪雪による売上減少ΔSがmΔS < F − BEP余裕であれば赤字転落は回避可能。都市全体で通勤・物流が同時停止する局面では、BEP余裕の薄い中小企業ほど脆弱である。

試算フレーム(中小企業)入力例期待損失(EL)
従業員50人、在宅可能20%、1日粗利益60万円出社不能60%、物流遅延40%、中断6時間EL ≒ 60万円×{0.6×(6/8) + 0.4×0.5} ≒ 45万円/日
備蓄・代替契約を追加在宅可能40%、代替配送20%確保、情報告知迅速化EL ≒ 60万円×{0.4×(4/8) + 0.2×0.5} ≒ 24万円/日

重要なのは、「めったに起きない」は経営の言語ではないことだ。年1回・2日間の停止が、年商の0.1〜0.3%の期待損失に相当するなら、それは投資判断の案件である。雪害は「保険型の投資対象」に翻訳し、在宅率を上げるIT投資、代替配送の契約費、従業員用宿泊の確保など、ELを逓減させるメニューをポートフォリオ化して選ぶ。

今回の空港滞留は「局地ショックがサプライチェーン全体の期待損失を押し上げる」ことを実地で示した。空港—鉄道—バスの連結部は、都市の経済循環の毛細血管であり、その閉塞は末端から機能障害を引き起こす。

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