スマホで調べる前に、声を失わないために——人に聞く力とSNS時代の感性編集術

背景と文脈

「聞く」とは? 言葉の定義と響き

日本語には「聞く」と「聴く」がある。前者は情報の受信、後者は意志の投射。「聴」は「耳」と「徳」から成り、相手に徳を尽くす態度が含まれる。民俗学者・宮本常一の聞き書きは、土地の声を人の背中ごと記録し、地図にない道を立ち上げた。「聞く」は、情報の補填ではなく、世界の再構成だ。

心理学では、対人関係の互恵性が信頼を生成する過程が知られている。声を交換することは、相手の認知世界を一時的に借りることでもある。哲学者ハンナ・アーレントは「話すことと行為は不可分」と述べた。沈黙に慣れたタイムラインの上で、私たちはどこまで「話した」と言えるだろう。

テクノロジー論のシェリー・タ―クルは「対話の喪失」を憂い、デバイスが与える疑似的な制御感が、他者の予測不能性を避ける傾向を強めると指摘する。だが創造の多くは、予測不能という湿り気から発火する。効率化の霧が、偶然を枯らしてはいないか。

「知識は検索できる。物語は呼びかけないと来ない。」

歴史が語る「変化の軌跡」

媒介技術の変遷は、聞くことの様式を何度も書き換えてきた。口承から活版へ、放送からネット検索へ、そして生成AIへ。変化の軌跡を、社会の意識構造と重ねて眺めたい。

時代主媒介聞く様式利点代償(失いやすいもの)
口承(〜15世紀)声・儀礼対面・反復関係・記憶の強化正確性・拡散速度
印刷(15〜19世紀)書物・新聞読解・批評保存・再現身体性・即興性
放送(20世紀)ラジオ・テレビ同時体験共時性・共有感双方向性
検索(1998〜)検索エンジンクエリ化即時性・網羅性偶然・地域性
生成AI(2022〜)対話型生成擬似会話補助・要約出典性・責任・関係

変遷のたびに、私たちは能力を「獲得」しながら、別の何かを「喪失」してきた。損失はゆっくりと、気づかれぬまま進む。そのため〈いまあるもの〉の防衛、本稿で言えば「人に聞く力」を意識的に支えるデザインが要る。

失いかけたものを守るのは、しばしば古い技術ではなく、新しい使い方である。

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。