前知事が“セクハラ辞職”の福井県――内部通報が機能しない会社の3つの特徴と直し方

課題と背景

「ハラスメント防止条例」とは?

条例は「誰が、何に、どう責任を持つか」を明文化し、再発防止の骨組みを示すもの。福井県案の特徴は、知事・副知事などの特別職も対象に含め、「起こさせない(予防)・見逃さない(早期検知)・繰り返さない(是正・学習)」を掲げている点です。民間企業に置き換えれば、取締役・執行役員を含む全員が範囲内。トップの行動責任が可視化されます。

一方、企業には企業の法的枠組みがあります。ハラスメント防止措置義務(大企業は2020年、中小は2022年から適用)、公益通報者保護法の体制整備(相談窓口、通報対応体制、記録・保存等)などは最低ライン。さらにISO 37002に沿った「公正・機密・保護・タイムリー」の原則に基づく運用が、投資家・採用市場からの信頼を生む時代です。

項目自治体条例(例:福井案の方向性)企業実務(推奨)
対象範囲一般職員+特別職(知事等)正社員・役員・パート・委託先まで
基本原則起こさせない/見逃さない/繰り返さない予防(教育・設計)/検知(通報・分析)/是正(制裁・学習)
窓口内部通報・相談の整備・外部も視野社内・社外(弁護士・第三者)併設、匿名/記名選択
トップの責務方針表明・率先垂範・説明責任署名入り方針・定例メッセージ・KPI公開
運用の質手続の透明性・再発防止計画ISO 37002準拠のSOP、再発防止レビュー、サーベイ

データで見る「個人の悩み・企業の壁」

現場の声は深刻です。「見て見ぬふりが正解になっている」「相談すると自分が損をする」——これは能力ややる気の問題ではなく、制度設計と運用の問題。厚生労働省の公開資料でも、相談窓口の設置率は上がっている一方、信頼・利用率は伸び悩む傾向が指摘されています。数字が示すのは、「ある」ことと「使える」ことのギャップです。

現場の悩み背後の構造推奨アクション
相談しても改善されない対応SLAが不明・責任者不在受付→初動→調査→是正のSLAを明示。担当を指名
報復が怖い匿名性・守秘の欠如、保護規程が弱い匿名通報を標準化、報復ゼロを懲戒規程に明記
管理職が軽視教育・評価指標に反映されていない評価に「心理的安全性KPI」を組み込み加点・減点
境界が曖昧で判断不能事例ベースのガイド不足「グレー事例集」と相談フローを配布・更新


成功事例と視点:現場で起きた小さな革命

北陸の中堅メーカーA社(従業員600名、仮名)。以前は「窓口はあるが動かない」典型例でした。通報ゼロが3年続き、管理職のハラスメント研修は毎年ビデオ視聴のみ。離職率は業界平均の1.5倍。しかし、ある事件をきっかけに、社長が「沈黙はコストだ」と明言。3カ月で次の3点を実装しました。

  • 社外弁護士窓口の導入と、匿名通報プラットフォームの採用
  • 「初動48時間」「調査開始7日以内」「暫定措置の判断」をSLAとして公開
  • 評価制度に「チームの心理的安全性スコア」を組み込み、管理職の加点・減点に反映

結果、半年で有効通報は12件。うち4件は早期介入で重大化を回避。離職率は前年同期比で20%改善。従業員サーベイでは「安心して声を上げられる」が15ポイント上昇しました。大きな投資ではありません。「意思表示」「即時の制度化」「運用の透明性」の三点が効いたのです。

“見逃さない”は、偶然には起きない。設計して、繰り返す。

もう一つ、ITスタートアップB社(200名、仮名)。同社は「マイクロアグレッション(無自覚な差別)」に注目し、週次の全社会で「1分・フィードバック」を恒例化。発言ルールを明文化し、ハラスメント相談は匿名フォームからCHRO直通。小さな違和感のうちに共有する文化が根づき、プロダクト開発のレビューでも“言いやすさ”が質を上げています。守りの仕組みは、攻めの競争力に直結するのです。

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