
「都合のいい数字」に乗らない社長の統計チェック3点
現状分析:母数・定義・期間で結論が反転する仕組み

「都合のいい数字」とは何か(統計・経済の定義)
「都合のいい数字」とは、同一事象に複数の指標・分母・基準がある中で、特定の主張を補強する選択だけを示す行為です。経済・統計の言葉で言えば、サンプル選択バイアス、ベースライン効果、名目・実質の乖離、中央値と平均値の乖離、端点効果(期間トリミング)の組み合わせで起きます。
- 賃金:名目賃金 vs 実質賃金(CPIで調整)
- 雇用:完全失業率 vs 就業率・労働参加率
- 成長:名目GDP成長率 vs 実質GDP成長率、1人当たりGDP(PPP)
- 格差:平均世帯所得 vs 中央値所得、ジニ係数(再分配前/後)
- 財政:財政赤字/GDP比 vs 基礎的財政収支(PB)
- 物価:総合CPI vs コアCPI(生鮮除く)・コアコア(食料エネ除く)
媒体の責務は「どの定義を採用したか」を明示し、「なぜその定義が政策比較に適切なのか」を説明することです。説明のない数字提示は、社長の判断コストを増やし、信頼の摩耗を招きます。
典型例:賃金・失業率・中央値で起きる“見え方の逆転”
以下は、同じ事象でも母数・期間・定義で評価が反転し得る典型例です。数値は概念説明のための例示で、一次情報はe-Stat、総務省統計局、厚生労働省、内閣府、OECDなどで確認してください。
| 論点 | 指標A(主張に有利) | 指標B(対立指標) | 評価が反転する条件 | 社長が見るべきポイント |
|---|---|---|---|---|
| 賃金 | 名目賃金 +2.0%(例示) | 実質賃金 -1.0%(例示) | インフレ率>賃上げ率 | 「値上げ・賃上げ・採用」は実質で判断します |
| 雇用 | 失業率 2.5%(低水準) | 労働参加率 60%(低位) | 非労働化の進行 | 人手不足の本質は失業率だけでは見えません |
| 成長 | 名目GDP +4%(例示) | 実質GDP +0.5%(例示) | 物価上昇が大きい局面 | 売上の増加が数量増か値上げかを分解します |
| 格差 | 平均所得 550万円 | 中央値 430万円 | 上位の外れ値が大きい | 顧客・社員の実態は中央値の方が近いです |
| 財政 | 赤字/GDP -4% | PB -6% | 利払い・景気要因の影響 | 政策の持続性はPBも併記します |
| 物価 | 総合CPI +3.5% | コアコア +2.0% | エネルギー価格の変動 | 原価と販売価格の設計に直結します |
期間選択も同じくらい重要です。景気循環の底を起点にすると「回復率」は大きく見え、ピーク起点では逆になります。端点効果を避けるために、3年移動平均や5~10年の傾向を併記すると、社長の判断が安定します。
| 期間 | 実質賃金(前年比) | 名目賃金(前年比) | CPI(総合) | 示唆 |
|---|---|---|---|---|
| 短期(直近12カ月平均) | -1.2%(例示) | +1.8%(例示) | +3.0%(例示) | 名目が増えても購買力が落ちることがあります |
| 中期(3年移動平均) | -0.2%(例示) | +1.5%(例示) | +1.7%(例示) | ギャップは縮小しても残る場合があります |
| 長期(10年トレンド) | ±0%近傍(例示) | +0.8%(例示) | +0.8%(例示) | 構造(生産性)と連動しやすいです |
国際比較も注意が必要です。為替レートの名目換算は年次で大きく動きます。一方でPPP換算は安定的ですが、価格水準差を前提にします。社長が「海外比較で焦らされない」ためには、目的に合わせて指標を使い分けるのが現実的です。
| 国際比較指標 | 換算 | 評価の特徴 | 社長向きの使いどころ |
|---|---|---|---|
| 1人当たりGDP | 名目USD | 為替の影響が大きいです | 輸出入・資金調達の感応度を見るとき |
| 1人当たりGDP | PPP | 購買力比較に向きます | 生活水準・賃金水準を語るとき |
「母数を変えれば、世界は変わります。だからこそ裁量は透明性で担保します」
外部リンク(一次情報):統計の確認は、まずe-Stat(政府統計)を起点にすると迷いにくいです。政府統計の総合窓口 e-Stat















この記事へのコメントはありません。