香川の“痩せウニ”で売上と海を守る──讃岐うどん雲丹に学ぶ社長の収益モデル

瀬戸内の痩せウニと食品ロスを「讃岐うどん雲丹」という新ブランドで資産化する動きが始まっています。本稿では、失うリスクを最小化し、地域収益を最大化する制度・財政・人材の再設計について、中小企業の社長目線で整理します。

【目次】

  • 導入:課題の背景と全体像
  • データで読む現状(統計・動向・比較)
  • 政策と現場のギャップ
  • 国際比較と改革の方向性
  • 解決案:制度・人材・財政の再設計
  • 総括:未来志向の経済システムとは
  • 付録:参考資料・出典・謝辞

導入:課題の背景と全体像

結論からお伝えします。香川で始まった新ブランド「讃岐うどん雲丹」は、瀬戸内海の磯焼け(藻場の消失)食品ロスという二つの構造的課題を、痩せウニ(身入りの少ないウニ)という未利用資源の価値化で同時に解決しようとする実装モデルです。経済政策の要諦は「失うコストを減らし、残す価値を増やす」ことです。痩せウニを漁場から除去・蓄養・加工し、うどんのだし・ソース・具材として規格化すれば、藻場は回復に向かい、漁業者には副収入が生まれ、食品事業者は高付加価値商品の新しい柱を得ることができます。

もし今、制度・財政・人材の結節点をつくらずに機会を逃してしまいますと、藻場の生態系サービスの喪失、観光と食のブランドの毀損、地域金融の貸出先の希薄化という「三重の損失」を将来に織り込むことになります。「やらないリスク」が最大の費用になるという現実を、中小の水産・食品・観光事業の社長は直視する必要があります。

社会背景も確認しておきます。瀬戸内海では、温暖化や栄養塩の変動、ウニ・魚類の過剰な食害などが重なり、各地で藻場が縮小しています。藻場は稚魚のゆりかごであり、炭素吸収(ブルーカーボン)や水質浄化という外部性も持ちます。失えば漁獲は細り、地域の水産業は体力を削られてしまいます。一方、陸上では日本の食品ロスは年間約464万トン(2023年度推計値)とされており環境省・消費者庁公表、低・不規格品や副産物の未活用が見えにくいコストになっています。

香川には観光と「さぬきうどん」という強い需要の受け皿があります。海の未利用資源を食のブランドにつなげられる地の利があるのです。人間は失うことへの忌避(損失回避)に強く反応します。藻場を守ること、食の信頼を崩さないこと、地域の稼ぐ力を落とさないこと——こうした「失ってはならないもの」を軸に、行動設計を変えていくタイミングに来ています。

構造も分解してみます。水産資源管理の現場は、漁業権・海区漁業調整委員会・漁協・市町・県・国という多層的なガバナンスですが、除去対象である痩せウニを価値化する仕組みはまだ脆弱です。除去は補助金事業として点的・季節的に行われることが多く、蓄養・加工・販売との接合が弱いままです。他方、食品側ではHACCP対応や規格化、物流温度管理、ブランド統治といった要件が高まり、零細企業には越えにくい参入障壁になりがちです。

この結果、海では痩せウニが藻場を食い荒らし、陸では価値転換のパスが途切れ、双方で資源の座礁(スタンデッド・アセット化)が起きてしまいます。これを解くには、「除去 → 蓄養・加工 → 規格商品 → 既存の大口需要(うどん)」という一気通貫の制度設計と資金繋ぎ、そしてトレーサビリティによる信頼形成が必要です。

問題提起はシンプルです。もし「痩せウニ=廃棄・コスト」という認知が固定化されたままですと、藻場の回復は遅れ、次世代の漁獲と観光の基盤が損なわれてしまいます。食品ロスは会計上「見えない費用」として利益を削り、賃金原資を圧迫し、地域の労働市場を硬直化させます。失うのは数字だけではありません。海の多様性、食文化の厚み、地域に根差す誇りも目減りします。

逆に、痩せウニの価値化を標準化できれば、藻場の回復はブルーカーボン価値の創出につながり、うどん産業は単価と客単価の上昇で設備・人材投資を回しやすくなります。行政は成果連動で事業効果を測定でき、金融機関は返済原資が見える案件に資金を供給しやすくなります。「やらない」選択が最も高くつくという現実を、定量的に見える化することが経営判断の出発点になります。

解決の方向性は三つの軸で整理できます。第一に資源軸:痩せウニの除去・蓄養・加工を制度化し、海の回復と原材料供給を両立させます。第二に市場軸:「讃岐うどん雲丹」を地域団体商標やGIで守り、だし・ペースト・乾麺ソース・冷凍具材など複数SKUを規格化し、B2B/B2C両輪で販路を広げます。第三に財政・金融軸:成果連動型民間委託(PFS/SIB)、ふるさと納税、地域金融のリボルビング、観光税の一部充当などで初期投資と運転資金を確保します。

全体を貫くのは損失回避の設計です。関係者が「使わないと損」「撤退する方がコストが高い」と認識できる仕掛け(デフォルト選択、撤退コストの可視化、比較提示)を組み込むことで、行動変容の速度を高めていきます。なお、同じように未利用資源を収益化した事例としては、「カプセルトイは『高利益の集客装置』だ:経済政策・制度改革・小売業の実装戦略」など、当サイトの関連記事も流用できます(例:カプセルトイ高利益モデルの解説記事を探す)。

本稿は、ニュース「香川に新しい食のブランド『讃岐うどん雲丹』が誕生」(MSN)を一次情報としつつ、データで現状を把握し、制度の歪みを点検し、政策と現場の両面から改善提案を行います。対象は香川県を中心とした農業・水産業の現場、食品・観光事業者の経営者、行政職、研究者であり、読み終えた直後から使えるKPI・事業設計・予算手当の考え方を示します。

狙いは、未利用資源を「制度に包摂された資産」に転換し、香川から瀬戸内、そして全国に波及可能な収益モデルをつくることです。海の回復を慈善活動ではなく「稼ぐことと同義」にすることが、中小企業の社長にとって最も実務的な視点です。

「讃岐うどん雲丹」は、瀬戸内の磯焼け対策と食品ロス削減を一つのブランドで結び、地域経済に新たな収益の柱を立てる試みです。

出典:香川に新しい食のブランド「讃岐うどん雲丹」が誕生(MSN)

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