経産省2026予算でAI・半導体1.239兆円──中小企業が売上に変える10年戦略

解説・執筆:松永 渉(データ政策解説者 / 元日経記者)

  • 統計事実(Data):経産省2026年度予算3.0693兆円、AI・半導体1.239兆円(前年3.7倍)。
  • 構造要因(Structure):AI計算資源・先端半導体の海外依存と経済安保の需給逼迫。
  • 未来予測(Forecast):10年で内製率・生産性が分水嶺、投資停滞は外部課金増で収益圧迫。

1.239兆円—この数字は単なる予算ではない。最先端半導体とAIに対する国家の「時間を買う」ための保険料である。支出は一見巨額だが、何もせず外部に依存し続ける「機会損失」はより大きい。投資しないことで失う競争力、外部計算資源への課金増、供給網リスク。この3重の損失を回避するための政策の意味と、企業、特に中小がこれをいかに売上に変換するかを、データで読み解く。

目次


導入部:数字が突きつける現実

2026年度の経済産業省予算は3兆693億円で前年度当初比約5割増である。とりわけAI・最先端半導体への計上は1兆2390億円と、前年度当初の3.7倍に膨張した。統計の意味は二重である。第1に、AI計算資源と先端半導体の海外依存がリスク化し、国全体で「選択と集中」を図る段階に入ったこと。第2に、税制・保険・エネルギー・通商を横断する「制度のひずみ」を一括補正する必要が生じたことである。

個別項目では、ラピダスへの政府出資1500億円(累計2500億円)、フィジカルAIに3873億円、重要鉱物の調達多角化に新規50億円、NEXIの財務基盤強化に交付国債1兆7800億円、次世代革新炉に1220億円が並ぶ。税制面ではROI15%以上かつ投資額35億円以上(中小5億円以上)を対象とし、即時償却または税額控除7%(建物4%)を最大5年選択可とする「大胆な投資促進税制」を新設。車体課税では環境性能割を2026年3月末で廃止し、エコカー減税を基準強化の上で2年延長する。

「投資の先送りは、海外クラウドへの恒常的な“計算税”支払いに等しい」


現状と構造

「先端半導体・AI・フィジカルAI」とは?

先端半導体とは、一般に最小線幅(プロセスルール)が3nmから2nm級、さらには次世代のGAA(Gate-All-Around)アーキテクチャを採用するロジック半導体を指す。AI分野では、基盤モデル(大規模言語・マルチモーダル)を学習・推論するための計算資源(GPU/AIアクセラレータ、ネットワーク、ストレージ)と、データ基盤(収集・整備・ガバナンス)を含む。フィジカルAIは、生成AIや強化学習をロボット・機械・設備の制御へ接続し、実空間での生産・物流・点検の自律度を高める領域を意味する。

統計的にみれば、当該投資は「総固定資本形成」におけるICT資本・機械設備投資、ならびに「無形資産投資」(ソフトウェア、データ、組織資本)に跨る。これらの投資伸び率は、労働生産性(付加価値/労働投入)に高い弾性を持つことが、OECDや各国の成長会計で確認されている。よって本予算は、短期の景気対策ではなく、生産性のトレンドを引き上げる「ストック調整」の性格が強い。

データで見る「乖離」:海外依存と制度のひずみ

現在の乖離は三つある。第1に、先端ノードの国内供給能力の不足。第2に、AI計算資源(特に学習用GPUクラスタ)の国内価格・リードタイムの海外比劣位。第3に、税制・規制・電力コストが複合的に投資回収を遅らせる制度的乖離である。今回の予算・税制はこの乖離を「時間短縮」と「リスク低下」で埋める試みである。

項目金額対前年度備考
経産省当初予算総額3兆693億円約+50%総額ベース
AI・先端半導体1兆2390億円3.7倍基盤モデル・データ基盤・計算資源等
フィジカルAI3873億円ロボット・機械制御のAI化
ラピダス出資1500億円累計2500億円
重要鉱物(レアアース等)新規50億円調達多角化・資源開発
NEXI交付国債1兆7800億円日米戦略的投資イニシアチブ履行
次世代革新炉1220億円約+40%新型原子力の技術開発

AI・半導体の前年比3.7倍という伸びは、単年度支出の急拡大というより、政策ポートフォリオの主役交代を意味する。過去に液晶パネルで経験した「補助金は出したがグローバル構造に飲み込まれた」事例を回避するには、資本装置だけでなく、無形資産・人材・電力・需要創出の同時投資が不可欠である。


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