冬季需要を利益に変える「損失回避」経営──サーティワンに学ぶ飲食の坪効率・在庫回転・出店最適化

解説・執筆:石垣 隆(経済政策アナリスト / 元経済紙論説委員)

  • 【30秒で把握】経済視点で見るニュースの本質
  • 統計事実:冬季でも行列・出店が継続、通年需要の平準化が進展
  • 構造課題:飲食は季節・天候依存が大きく、固定費が収益を圧迫
  • 石垣の提言:「損失回避」設計でダウンサイドを封じ、坪効率を最大化

サーティワンアイスクリームは、冬季の需要減という飲食の構造的リスクに対し、メニューの定番化と季節商品・ギフトの二段構え、少人員・小商圏対応のオペレーション、フランチャイズの出店設計で「ダウンサイドを徹底的に潰す」損失回避型経営を実装している。飲食が利幅と需要の不確実性に苦しむ局面で、同社の手法は固定費負担を抑えつつ坪効率・在庫回転を高める制度設計として一般化可能である。

目次

  • 「冬でも行列」は偶然ではない──サーティワンに見る“季節変動を殺す経営設計”
  • 損失回避で設計する飲食経営──赤字に落ちない構造のつくり方
  • 冬でも売れる理由──単価×数量を補完する商品設計
  • 現状分析:店舗・制度・サプライの設計を掘る
  • 【Q&A】制度と課題の深層
  • 解決策の提示:制度設計と現場の打ち手
  • 結論:季節に負けない飲食経営は「平準化」を設計せよ

「冬でも行列」は偶然ではない──サーティワンに見る“季節変動を殺す経営設計”

ニュースは「冬でも行列、ビジネス街で大人気、出店が続くサーティワンアイスクリーム」を伝える。通常、アイスクリームは季節弾力性が高く、売上の山谷が大きい。にもかかわらず冬季でも新規出店が続く事実は、同社が季節変動のボラティリティを制度設計で抑制し、通年の需要を平準化していることを示す。飲食業界全体では、電力・人件費・物流費の上昇で固定費負担が増し、売上の振れが赤字転落に直結する。ダウンサイドを封じる「損失回避」設計が、今後の生死を分ける。

同社の強さを分解する鍵は三つである。第一にSKU(品目)構成の二層化──「必ず当たる定番」と「季節・イベントの変動弾力」。第二に小規模かつ座席依存度の低い店舗設計が生む高い坪効率。第三にフランチャイズ(FC)制度とロイヤリティ、セントラルキッチン的生産体制がもたらす固定費の圧縮と在庫回転の高度化である。これらは固有名詞を外しても再現可能な原則であり、飲食全般に転用可能である。

「外さない定番で損を防ぎ、季節提案で稼ぐ」──これがサーティワン型の損失回避経営のコアである。

損失回避で設計する飲食経営──赤字に落ちない構造のつくり方

「損失回避経営」とは?経済的定義

行動経済学の損失回避(Loss Aversion)は、同額の利益よりも損失の効用が大きいという人間の非対称性を示す。飲食経営に適用すると、「①粗利が確実に積み上がる定番の維持」「②在庫・人員のブレを最小化」「③悪天候・季節要因でも赤字化しないコスト構造」の三点が要件となる。数式で示せば、期間tの営業利益Πは、Πt=Σi(Pi−Vi)Qi−Fであり、季節要因でQiが落ちてもF(固定費)で赤字転落しないよう、Vi(変動費)とFを同時に抑えつつ、需要の価格・季節弾力性に強いSKUミックスで平均Qiを底上げすることが核である。

サーティワンの設計はこの要件に合致する。①高回転の定番フレーバー(例:バニラ、ミント、ポッピング系など)が売上の基礎を構成し(売上の40〜50%、※推計)、②調理を伴わないため変動費率と労務密度を抑え、③冬季需要をギフト・アイスケーキ・コラボで補完、④小規模な店舗でも売上密度を確保する。結果として冬季のQi低下に対する耐性が高く、出店の採算閾値が下がる。

データが示す「不都合な真実」:季節・固定費・人手不足の三重苦

指標一般カフェ(中央値)アイス専門(サーティワン型、推計)出典・注記
原価率(COGS比)35〜40%25〜30%一般:日本フードサービス協会、専門店:※推計
労務費率(売上比)25〜30%18〜24%調理工程の簡素化による低減(※推計)
坪効率(年商/坪)80〜120万円120〜180万円都心小型店ベンチマーク(※推計)
季節弾力性(夏=100)85〜9590〜105冬季の平準化策で逆風を緩和(※推計)
初期投資回収期間36〜60カ月24〜42カ月設備・内装コストの軽さ(※推計)

不都合な真実は、固定費が重く、季節・天候のショックですぐ損益分岐を割り込む点である。電力・人件費・物流費の3コストは2022年以降上昇が続き、名目賃金の上昇が進む一方、実質所得は物価上昇の影響で伸び悩む月が多い。客単価の値上げだけでは需要を毀損する恐れがあり、店舗当たりの売上密度(坪効率)と回転率を上げる以外に解はない。サーティワンは「調理レス・省人化・小面積・回転商品」の組み合わせで、定常的にこの壁を越えている。


冬でも売れる理由──単価×数量を補完する商品設計

ビジネス街での行列は、昼休みと退勤時の「短時間・非滞在」需要に適合した業態の勝利である。座席回転に依存せず、テイクアウト中心でも瞬間風速的に売上を積み上げられる。1オーダーあたりのサーブ時間が短く、平均客単価(単価×数量)が500〜700円レンジ(※推計)であっても、ピーク時間帯の通行量×転換率が高ければ粗利が積み上がる。

時間帯主客層平均客単価(円)回転/時間(1レーン、杯)コメント
昼休み会社員・学生500〜65060〜90短時間・行列許容、テイクアウト中心(※推計)
午後〜夕方買物客・家族550〜70040〜70同伴率上昇でバスケット拡大(※推計)
夜間帰宅客・ギフト600〜75030〜50アイスケーキ予約・受取で高単価化(※推計)

冬季においては、ギフト・アイスケーキ・イベント(クリスマスやバレンタインの限定)で平均単価が上振れする。SKUの弾力性を使って「数量の減少を単価で補う」機能が働く。ここに損失回避の論理がある。数量が落ちても、在庫の保管・廃棄リスクが相対的に低いアイスは、歩留まりの悪化を招きにくい。ドーナツやパンのような日持ち短い生鮮ベーカリーに比して、在庫の時間価値減耗が小さいため、冬の気温・天候ショックに強い。

「季節に依存しないのではない。季節の“弱点”をメニューでヘッジする」

さらに、IPコラボや限定フレーバーは「外したくない心理」を強める。損失回避の観点では、消費者は「限定を逃す損失」を強く意識し行列コストを許容する。定番で安心を担保しつつ、限定で来店動機を創る二層構造が、冬季でも回遊を生む。これは価格プロモーションに依存しない健全な需要創出である。


現状分析:店舗・制度・サプライの設計を掘る

フランチャイズ制度と出店拡大:ダウンサイドを抑える資本設計

出店が続く背景には、FC制度と小規模投資の組み合わせがある。FCでは本部がブランド・商品・オペレーション標準を提供し、加盟店が立地と運営を担う。ロイヤリティ収入は売上連動で、製造・物流は規模の経済でコストを引き下げる。加盟店側は調理設備が軽く、厨房の熟練依存が小さいため、初期投資と教育コストが抑えられ、損益分岐点売上高が下がる。結果として、冬季の売上低下期にも赤字転落しにくい構造になる。

項目意味サーティワン型の設計(推計・一般論)
初期投資回収年数の短縮小規模内装・冷凍設備中心、キッチン軽量
ロイヤリティ本部と加盟店の利害整合売上連動・広告分担で集客を平準化
サプライ原価の標準化本部集中購買で原価率安定
教育人件費率の抑制短期トレーニングで即戦力化

同時に、ギフト・ケーキといった「予約前提」のSKUを持つことで、予見可能な売上を冬季に前倒しで確保する。需要の先取りは仕入・在庫・人員の計画精度を上げ、廃棄と残業の過少・過大を避ける。ここでも損失回避の思想が貫徹している。

SKUミックスの二層化:定番で底上げ、限定で上振れ

売上のコアは「外さない定番」にある。トップSKUの累積寄与率が高いほど、需要の基礎が安定し、広告・販促のROIが読みやすくなる。一方で季節限定・コラボは来店回数を増やし、単価の上振れを生む。二層のKPIを分けて管理することが重要だ。

SKU層KPI目標設計(例)計数管理のポイント
定番(上位5〜8品)週次在庫回転、欠品率、粗利額売上の45〜55%寄与(※推計)欠品ゼロ、シフト固定、調達の安定
限定・イベント来店回数、単価、SNS波及月次売上の15〜30%上振れ(※推計)発売・終了の明確化、予約誘導

「欠品は機会損失」であり、損失回避の観点では最小化すべきである。一方で限定は「希少性を高く維持」し、売り切れがブランド価値を毀損しないよう予告と代替提案を用意する。定番と限定で「欠品の許容度」を分ける設計が合理的である。


【Q&A】制度と課題の深層

Q1. なぜ冬でも出店が続くのか?

A. 冬季の需要平準化と投資回収の見通しが立つからである。定番の高回転・予約型商品の存在、非座席依存の業態により坪効率が高く、損益分岐点が低い。FCスキームで初期投資を抑え、原価・人件費の標準化で計数のブレを小さくしているため、季節変動に耐える。

Q2. 値上げ局面で需要は毀損しないのか?

A. 限定・ギフトの高付加価値SKUが単価上昇を吸収し、定番はサイズ・数量で調整可能である。飲食の価格弾力性は「代替可能性」と「頻度」で規定されるが、短時間・非滞在のデザートは代替が多い一方、ブランド嗜好性が強い。価格の微修正はバスケット設計(ダブル→シングル+トッピングなど)で需要を維持できる。

Q3. 人手不足の中で品質と速度をどう両立しているか?

A. 調理レス・工程標準化が鍵である。スクープ・盛付け・決済の3工程に分解し、交差汚染の少ない動線で教育負担を減らす。ピーク時はレーン分離(注文受け・盛付け・受け渡し)でスループット最大化、非ピーク時は1〜2名運用に切替え、労務密度を動的に調整する。

Q4. 他の飲食業態に転用可能か?

A. テイクアウト適性が高く、調理工程が短い商品群(焼菓子、チルドデザート、ティードリンク等)には高い転用性がある。ポイントは、①定番の強化と二層SKU、②予約・ギフトの柱を持つ、③非滞在でも売上が立つ店設計、④在庫の時間価値が減りにくい商品の比率を高める、である。


解決策の提示:制度設計と現場の打ち手

以下では、サーティワンのモデルから抽出した原則を、飲食業の経営に転用するための実装手順として整理する。各手順は「損失回避(下振れリスクの抑制)」を主眼に置く。

1. SKUポートフォリオの二層化と「欠品の優先順位」設計

定番は欠品ゼロ、限定は希少性を演出——この非対称を意図的に設計する。季節変動期(冬・長雨)においても定番で粗利を確保し、限定は予約誘導(先売り)やセット化で単価の上振れを狙う。SKUごとに「最低在庫・補充点・代替提案」を明示し、現場裁量での過剰在庫や欠品を減らす。

SKUタイプ欠品許容在庫指標代替提案
定番不可日次回転2.0以上、在庫日数3日以内(※推計)同系統フレーバーで代替
限定可(予告制)発売前予約率20%以上(※推計)次回限定の予約・取り置き

2. ピーク時スループット最大化の「3レーン」運用

ピーク時は、①注文・会計、②盛付け、③受け渡しを分離する。1レーンあたりの処理能力(杯/分)を測定し、行列許容時間を7〜10分に設定する。非ピークは2工程統合で1〜2名運用に絞る。労務費率の平準化は、損益分岐点の引下げに直結する。

3. 冬季の「予約・ギフト」比率をKPIに組み込む

11〜2月の予約売上比率を月次KPIとして管理し、前年比+5ppを目標に置く。予約は仕入と人員シフトの精度を上げ、廃棄を減らす。ギフトは単価を引き上げ、来店動機を創る。オンライン予約・決済の導入は必須であり、受取導線を短縮すると回転率も上がる。

予約売上比率(現状)目標主施策
11月8%(※推計)12%早割・コラボ発表
12月15%(※推計)20%クリスマス・年末ギフト
1月6%(※推計)10%帰省・成人式ニーズ
2月7%(※推計)12%バレンタイン連動

4. 価格の微修正は「バスケット設計」で吸収する

単純値上げは需要の損失回避心理を刺激する。サイズ・トッピング・セットの選択肢を増やし、顧客が「自分で最適化できた」と認知する構造にする。ダブル→シングル+トッピング、カップ→コーン差額など、単価の微上げを自己選択化することで離反を抑える。

5. 店舗フォーマットの二極化:小型直営×FCで面的展開

人流の濃い駅前・ビジネス街は極小型・高回転フォーマットで集客を取り、郊外・SCはFCで面的に展開する。面積あたりの冷凍設備投資はスケールメリットが効くため、複数店舗での集中購買・保守契約が費用低減に寄与する。

フォーマット面積目安席数想定坪効率コメント
小型都心(直営)8〜15坪0〜8150〜200万円/坪非滞在・ピーク集中(※推計)
郊外SC(FC)15〜30坪8〜20110〜150万円/坪家族需要・ギフト予約(※推計)

6. データ駆動の需要マネジメント:気温×時間×SKU

アイスは気温弾力性が高い。POSの時系列に気温・天候を結合し、SKU別に回帰モデルを作る。例えば気温1℃上昇で特定フレーバーの販売がβ%伸びるとわかれば、陳列・仕込み・人員配置を動的に最適化できる。冬季は気温依存の度合いが低い高単価SKUを前面に出す。

要因効果(例)現場アクション
気温+1℃フルーツ系 +3〜5%(※推計)前面陳列・スプーン試食強化
降雨来店 -10〜15%(※推計)モバイル予約訴求・受取時間延長
イベント週ギフト +20〜40%(※推計)予約締切・受取導線の明示

「天候は読めない。しかし“下振れの損失”は設計で最小化できる。」

比較・推移・シナリオ

以下に、価格×数量の弾力性を踏まえたシナリオ分析(※推計)を示す。冬季の単価微修正と予約比率増で、粗利を確保するパスを定量化する。

シナリオ平均単価客数指数(基準=100)粗利率粗利額指数コメント
現状冬季600円9070%63数量減で粗利縮小
単価+3%618円8871%62単価上げだけでは不足
予約比率+5pp630円8972%64高単価SKUで補填
上記併用636円8972%65併用で粗利回復

データ出典:販売データは一般論に基づく※推計。価格弾力性は商品カテゴリ別の過去調査(小売・外食の公開資料)を参考にレンジ推定。実装時は自社POSでの再推定が必要である。

結論:季節に負けない飲食経営は「平準化」を設計せよ

飲食業の持続可能性は、「需要の平準化」「コストの平準化」「オペレーションの平準化」の三位一体に依存する。サーティワンの事例は、①定番と限定の二層SKU、②予約・ギフトによる冬季の先売り、③非滞在・高回転フォーマット、④FCによる資本・運営の分権が、季節変動という構造的逆風を制度設計で乗り越えうることを示した。損失回避の発想は、割引に頼らずに「外さない選択を積み上げる」経営である。

政策面では、中小飲食向けのデータ活用(POS×天候API)支援、冷凍・省エネ設備への投資減税、EC・予約のデジタル導入補助が効果的である。民間の打ち手と公的支援を接続すれば、冬季の赤字を常態化させず、地域の雇用と賃上げの原資を生む。

短期・中長期の提言

  • 短期(0〜6カ月):冬季KPIの再定義(予約比率・欠品率・レーン処理能力)、定番SKUの安全在庫再計算、受取導線の短縮。
  • 中期(6〜24カ月):小型高回転フォーマットのテスト出店、冷凍設備の省エネ化、気温×SKUの需要モデル構築とシフト最適化。
  • 長期(24カ月〜):FC・提携を含む面的展開、ギフト・サブスクの制度化、IPコラボの年次カレンダー設計と予約経路の完全オンライン化。

参考・出典:対象ニュース・関連資料、日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査」、経済産業省「商業動態統計」ほか公開資料(数値の一部は※推計)。

(文・石垣 隆)

NEWS EVERYDAY for CEOs 中小企業のためのニュース深掘りメディア(URL:https://news-everyday.net/


データ出典・注記:本文の数値は公開資料からの中央値・レンジと現場オペレーションの一般論を組み合わせた推計値を含む。実務適用の際は自社POS・店舗別P/Lでの再推定が必要である。

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