
成果主義が会社を壊す——不正31億円事件で読む「報酬制度設計の臨界点と改革指針」5項目
解説・執筆:石垣 隆(経済政策アナリスト / 元経済紙論説委員)
【30秒で把握】経済視点で見るニュースの本質
- 統計事実:107人が500人超から31億円詐取、未返金23億円。
- 構造課題:過度な成果連動報酬が不正誘因を増幅、検知遅延。
- 石垣の提言:報酬分散化・繰延/没収条項と三線防衛の再設計。
BLUF:本件の本質は個人のモラルではない。制度設計が不正の期待収益をプラスに歪め、監視が遅れ、補償コストが資本を侵食しうる構造にある。解は、①報酬の分散化、②繰延・没収条項、③KPIの非財務化比率引上げ、④三線防衛の独立性強化、⑤データ監視の常時化である。実装順とKPIを示す。
目次
- 数字で読み解くニュースの全貌
- 現状分析—「成果主義」とは何か/データの不都合な真実
- 現場・市場の視点:その他業界への経済的インパクト
- 【Q&A】制度と課題の深層
- 解決策:報酬制度見直し5つの視点と実装ロードマップ
- 総括:持続可能なシステムへの提言
数字で読み解くニュースの全貌
外資系生保大手で、460万件超の契約を抱える企業で107人の社員・元社員が、500人超の顧客から31億円を不正受領した。未返金は23億円に上る。経営は「過度に業績に連動する報酬制度」を欠陥として明言し、第三者委員会設置と補償を表明した。事件の経済学的読解は明確である。高額の短期コミッションと検知遅延の組み合わせは、期待不正利得>期待制裁コストの状態を常態化させる。行動経済学的に顧客側の損失回避性は、信頼破壊後の解約・離反を非連続的(しきい値)に加速させる。したがって、この問題は収束しない。制度を変えなければ再発する。
| 主要事実 | 数値 | 注記 |
|---|---|---|
| 関与者数 | 107人 | 社員・元社員の合計 |
| 被害者数 | 500人以上 | 最小値基準(以降の平均は下限推計) |
| 被害総額 | 31億円 | ニュース一次情報 |
| 未返金額 | 23億円 | 返金未了部分 |
| 平均被害額(顧客1人あたり) | 最大約620万円 | 31億円÷500人での概算上限(※推計値) |
| 平均関与額(1人の関与者あたり) | 約2,897万円 | 31億円÷107人(※単純平均・推計値) |
この規模感は単発の逸脱ではなく、制度誘因の偏りを示唆する。成果連動報酬が「短期売上」と強く結びつき、顧客資産の実在性・適合性・リスク説明の3点チェックが実質的に後工程化(事後承認)していた場合、不正の期待収益は逓増する。経営が早期に「報酬制度の過度な成果連動」を明示した点は正しい。しかし修正の焦点は「比率の下げ」にとどめてはならない。設計原理そのもの—支払いのタイミング、没収条項(クローバック)、KPIの非財務化、監視の独立性、データの常時監視—を一体で再設計する必要がある。
「不正は個人の逸脱ではなく、制度の最適化の帰結である」














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