賃上げしないと人が消える。春闘5%時代に製造業が失うもの/守るもの

解説・執筆:石垣 隆(経済政策アナリスト / 元経済紙論説委員)

【30秒で把握】経済視点で見るニュースの本質

  • 統計事実:前回春闘は賃上げ率5%超(連合集計)と約30年ぶりの高水準でした。
  • 構造課題:下請の価格転嫁不足人手不足が、賃上げの持続性を毀損します。
  • 石垣の提言:原価連動契約(賃上げ条項込み)現場生産性KPIを同時に実装します。

結論は明快です。賃上げは善意ではありません。継続的な取引人材確保のための「経営防衛策」です。製造業は価格転嫁・生産性・人材の三位一体で制度化しないと負けます。前年の高い賃上げ実績は出発点に過ぎず、今年の春闘はそれを持続可能な設計へ昇華できるかが焦点です。

あわせて、社内の打ち手を進めるうえでは、価格転嫁を通す交渉・契約の型(内部リンク)と、工場KPI(OEE)ダッシュボードの作り方(内部リンク)を参照すると、実装が速くなります。

目次

数字で読み解くニュースの全貌

今春の労使交渉が事実上スタートしました。前回春闘では、連合集計で賃上げ率が5%超と約30年ぶりの高水準に達しました。一方で実質賃金は物価上昇の影響で押し下げられ、名目賃上げの成果が可処分所得に十分反映されたとは言い切れません。製造業、とりわけ裾野が広い中小企業は、原材料・物流コストの上昇分の価格転嫁が遅れ、賃上げ原資の確保が遅延した構造があります。

今回の元ニュース(外部リンク)は、NHK「ことしの春闘 事実上スタート 賃上げの勢い継続できるか焦点」です。社長が押さえるべき論点は「勢い」ではなく、制度として持続させられるかです。単年の大幅引上げは宣言であり、持続は設計です。

設計の核心は三つです。第一に、取引価格への原価連動賃上げ条項の制度化。第二に、工程・段取り・自動化に踏み込む現場生産性KPIの定着。第三に、採用・定着・育成の人材循環を回す賃金ポートフォリオの再構築です。

損失回避の観点でいえば、賃上げを怠る企業は「人材流出」「納期・品質リスク」「取引縮小」という不可逆の損失に直面します。いま賃金に投資しないコストが、将来の固定費増と機会損失として跳ね返ります。

賃上げは善意ではありません。取引継続と人材確保のための経営防衛策です。

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