「情報持ち出し」なぜ止められないのか――ゼロトラストと委託統治で守る顧客信頼の設計図9つ

解説・執筆:加藤 悠(IT技術革新解説者 / 元シリコンバレーエンジニア)

  • Tech(技術事実):ゼロトラストとDLPで「持ち出し不能」を実装
  • Impact(産業影響):出向・代理店モデルがデータ連携型に転換
  • Insight(加藤の視点):制度×設計×習慣の三位一体で信頼を再構築

生保大手で相次ぐ「出向先からの内部情報持ち出し」。信頼を失えば契約は流出し、販売網は痩せる。だが、技術はこの痛点を回避できる。ゼロトラストと委託統治(ベンダーガバナンス)を骨格に、データが「動かない」業務設計へ転じる好機でもある。本稿は、その実装と落とし穴を冷静に提示する。

目次


不可逆な変化の波

生保大手の一角で、出向先からの内部情報が持ち出された。報道によれば、持ち出しは販売実績など複数の出向先にまたがり、営業利用は確認されていないという。しかし、生命保険の本質は「信頼を前提にした長期契約」である。持ち出しの有無よりも、「持ち出せる設計だった」事実が顧客の期待値を傷つける。損失回避の心理で言えば、ひとたび失った信頼の回復コストは獲得コストの数倍に跳ね上がる。

痛点は三つ。第一に、組織境界(本社/出向先/代理店)をまたぐデータの可視化不足。第二に、就業・委託契約が技術統制と密結合していないこと。第三に、生成AIやSaaSへの「無意識の持ち出し」が新たな経路を開いたことだ。これらはルールで封じるより、技術で「できない」状態に落とし込む方が持続する。

解決の道筋は明確である。ゼロトラストを前提に、デバイス・アイデンティティ・データを一体で制御する。さらに、委託統治を契約・監査・証跡自動化で支える。デフォルト非移動の業務設計(データは動かさず、計算を動かす)へ転換することが、人的不正・過失・サプライチェーン事故を同時に減衰させる。

だが新たな課題も生まれる。過度な監視は職場の自律性を損ない、業務継続性は外部クラウドにロックインされる。AIによる自動遮断は誤検知のコストを内包する。だからこそ、技術礼賛ではなく、制度・文化・経済合理性を束ねた設計が問われている。

「信頼の設計は、『禁止』ではなく『不可能化』である。」

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